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PIONNER A-838

最終更新日 2009年1月26日

 


1989年 発売 120000円
459W×173H×471D
横幅より奥行きが長いアンプなので、設置場所には注意必要。
重量は28キロ (Gシャシーや特別な重量添加物を使用せず)
150W+150W(6オーム)

同時期の製品としては SU-MA10などがある。


このアンプの登場には、1986年のSONY TA-F333ESX/555ESXの登場が誘因になっている。TA-F333ESX/555ESXの登場により危機感を募らせたパイオニアは従来のアンプの路線をガラリと変更し、1987年にTA-F333ESXに対する対抗商品として、A-717(79800円)を発売する。また同じ1987年には上級機としてA-90D(220000円)が発売される。A-90DにはDAコンバーターが搭載されていたが、これからDAコンバーターを取り除き、シャシーの銅メッキをやめたモデルがこのA-838と言って良いでしょう。設定価格の120000円は、かなり戦略的なもので実際は180000円くらいで販売されてもおかしくない内容である。

SONYの333/555シリーズの物量投入作戦に追従したのは、パイオニアだけだったと記憶してます。元々KENWOODはKA990Vという戦略モデルを投入していましたが、後継機種の990Dや990EXでも、改めて驚くほどの物量投入は見られませんでした。DENONやサンスイも従来機の改良モデルを投入するに留まっていました。ONKYOはXスタビライザーという重量添加物を付加した製品を投入しましたが、内容的にはマイナーチェンジというべきものでした。ではパイオニアがアンプのセールスで成功したかというとそうでもなく、実質333ESR/555ESRくらいまでSONYの一人勝ちだったと思います。そのSONYも333ESA/555ESAの頃から陰りが見え始め、また各メーカーが肩を並べる時代に一次的に戻りました。一次的・・・というのは、そのすぐ後にバルブが崩壊し、オーディオブームが終わってしまい、多くのメーカーがこの価格帯から撤退してしまうのです。

話が横道にそれましたが、333ESX/555ESXと同じくらい、パイオニアの A-717/A-838は衝撃的な物量投入型商品でした。

取扱説明書から以下、引用します。(当サイトは雑誌や説明書からの引用部分はで表示いたします

  • 音をピュアなままに、ダイレクトコンストラクションU
    • ボリュームとパワーアンプ部分を同一基板に乗せ、振動経路を0.8-1.2mと従来モデルより更に短縮。入力、録音の切り替え、およびボリュームをリモートコントロールにしました。ダイレクトスイッチオン時には、フロントパネル側には一切音楽信号は流れず、余計なノイズをカット。
    • 各回路を改善セパレートブロック化。さらに入力ブロック、スピーカー端子ブロックをシールド。電源ブロックもヒートシンクでシールドすることにより、内部でのフィードバックを防止。
    • 信号経路の最短化思想に乗っ取ったスピーカー端子。入力端子から最短距離に結ばれた下側の端子を優先。
  • クリーングランドシステム
    • 電源トランス、ヒートシンクをシャシーから電気的に絶縁し、それぞれ回路上のベストポイントに結線。これにより不用意に電源ノイズがシャシーに流れることがなく、信号アースラインとシャシー接続点をベストポイントに設定することが出来、よりクリーンな音の再生を実現。
  • モーダル解析による効果的な防振対策
    • 従来のハニカム構造に加え、モーダル解析により、構造および材料の見直しを図り、無共振化をさらに推し進め、振動と共振による音質劣化を防ぎ、音をクリアーに再現。
  • キャビテッドパワートランス
    • トランスケースには高剛性でありながら、振動減衰特性の非常に良く、共振周波数を殆ど持たない鋳鉄を採用。このケースとトランスの間には、熱伝導性に優れた含浸材を充填。更に放熱フィンにより、トランス自身の放熱効果を高め、大出力時の電源インピーダンスを低減。
  • S映像端子対応の豊富なAV入力を装備
    • オーディオ7系統、ビデオ系4系統の入力に対応。
    • S端子で相互ダビングも出来るビデオセレクターを内蔵。
    • ビデオ系の電源には専用トランスを用いてオーディオ系と完全に分離。相互干渉を徹底的に排除。
  • 大型ハニカムインシュレーター
    • セット重量28キロを支えるため、直径60ミリの充填材入り大型インシュレーターと偏重心を考慮して、パワートランス下に鋳鉄製インシュレーター1個の合計5個を設置。セット全体の共振をおさえ、特に低域の分解能力を向上。設置部分には特殊マイクロセルポリマーシートを使用。
  • ハニカムヒートシンク
    • 従来のフィン型と比較して振動を受けにくく、受けたときの減衰特性も良好。さらに左右独立しているので、相互干渉による振動も防止。
  • バランス型シャフト構造
    • どんな高価なボリュームを使用しても、その軸に荷重がかかると音質は劣化します。そこでボリュームノブの軸受けを中心に重量バランスを取り、ボリューム本体には一切の静負荷をクリア。またシャフトには振動減衰特性の良い黄銅を使用。ボリュームノブにはアルミ無垢材を使用しました。
  • CDの重低音を4オームのスピーカーで鳴らしきるハイクオリティ低負荷ドライブ
    • ダイレクトコンストラクション、大容量電源、ノンスイッチングサーキットタイプVの採用で実現。180W+180W(20Hzから20kHz、4オーム)



2つのセレクターのノブは、アルミの無垢材が使用されている。 高音質化の為に、右のツマミを”VIDEO”にしないと、ビデオ関係の回路に電力が供給されないし、同様に下側の”PHONO EQ”のボタンを押さないと、イコライザー回路には電力が供給されない仕組みになっている。

ボリュームのツマミもアルミ無垢材である。


下のほうのトーコンのツマミはプラスチック製


上面からの撮影。2つのトランスと天板ギリギリまで迫ったフィルターコンデンサーが印象的。


スピーカー端子は下側がA端子になっている。
これは終段からの配線が、シャシー下側から上がってくるので、下側の端子のほうが配線の取り回しが短く、音質的に有利なためである。(勿論アンプの構造によって、異なる)

端子の形状は一般的なものであるが、割と大型で使い勝手は良い。


当時パイオニアはLD(レーザーディスク)関係のビジュアル装置にも力を入れており、このアンプにもS端子などの入力端子が設けられている。


電源コードは極性表示付きのキャブタイヤ。線材はOFCが使用されている。


サイドウッドは4本のビスで装着される。内側には制振材が貼られており、カバーをダンプする構造。珍しく、サイドウッドの内側まで綺麗に仕上げてある。内側は木材が露出しているのが普通である。


上面ケース;ハニカム形状のパンチングが特徴的。開口率が高く放熱の面で有利だが、上に重い機材を乗せると曲がる可能性もある。上2箇所、リヤ7箇所、サイド8箇所の合計17箇所でビス止めと、固定箇所が多い。A-90Dのものとよく似ている。全く共通かもしれない。共通なら重量は1810グラムである。



トランスは鋳鉄ケースに封入されている。ケースのサイズは115×118×95(放熱用のリブなどあるので参考値程度に)
バンドー社製で1個282VA、左右独立ではない。2つのトランスは直列に接続され、アースポイントは2つのトランスの間に設けられている。ソニーのTA-F555ESXと同じトランスの使い方である。ケースはA-90Dと全く同じである。


 


フィルターコンデンサーは 80V27000μFが2本
ネガティブ・ブラックが使用されている。サイズは直径62ミリ×高さ90ミリ程度。
固定には銅製のバンドが使われている。コンデンサーの容量とサイズも、A-90Dと共通。銘柄は違うかもしれない。


トランスの横で前後のパネルを接続する補強ビーム
厚さ1.8ミリの強靱な鋼板で作られている。


シャシーの側板もハニカムプレス構造


アンプ基板
アンプ基板はヒートシンクの中程に固定され、底板からも、かなり離れて設置されている。白い配線は銅製のバスバーの代わりのようだで、電源部からの電流を各終段に送る為のもの。緑色のコンデンサーはMUSEコンデンサーで330μF。バイアスを調節する箇所は見当たらない。

ヒートシンクはアルミの押し出し材で、凝った形状をしている。特にダンプはされていないが、各部分で厚みが異なり振動モードが違うため、叩いても全く鳴かない。


2SA1306/2SC3298(緑色の素子)
東芝製音響用トランジスター;アンプのドライバー段に良く使用される素子です。
その右にあるのが 2SA1145/2SC2705で、これも東芝製の音響用トランジスターで、初段によく使用されます。


パワーアンプの初段を思われる部位
ここにも2SA1145が使用されている。
右のほうに見える2SA992/2SC1845はNEC製のトランジスターで、コントロールアンプ段間増幅用,パワーアンプの初段およびドライバー段増幅用に良く使用される。


オリジナルICが使用されている。
おそらくノンスイッチング・サーキットタイプIIIに関連する回路か?ノンスイッチング・サーキットタイプVというのは、パイオニア式の可変バイアス変動システムで 他社で言うスーパーAとかダイナミックAなどと同系統のシステム。



ジョイントはメインボリュームの駆動用。シャフトは黄銅製。


意味不明の結束バンド
ヒートシンクの銅メッキビスも意味不明
音響的に効果があるのであろうか?AN-701にもこのような処置がされていた。


カバーを開けたところ
メインボリュームが見える。基板の端などにも布テープが貼られており、防振処理されている。


ボリュームはアルプス社製
60Kオームの特注品という意味だろうか? 布テープを張って防振されている。


カバーは丈夫


カバーを開けると、下のほうにPHONOイコライザーの回路が見える。
オレンジ色のものはフィルムコンデンサー


配線のため良く見えないが、 側面の基板は、セレクター類のみの様子。ご覧のようにメインボリュームはメインアンプの基板の上に直接固定されている。そのために中途半端な高さにメインアンプ基板がマウントされている訳である。


底面


中央の脚は、焼結合金製でズッシリ重く(250g)、M-90aやA-90Dと同じもの。
重心部分には設置されていない。


4隅の脚は樹脂製で内部はハニカム構造になっている。 設置面はゴム(?)製で27グラム。これもA-90Dと共通。


周囲には樹脂が充填されている。


底面のカバー
これもハニカムパンチング
パイオニアはこの時期 アンプやCDに好んでハニカム構造を取り入れていたが、ある時期からプッツリとやめてしまった。思ったような効果がなかったのだろうか?


ビデオ系の専用トランス
もったいない・・・というのが第一印象。これを初段やドライバー段の専用独立電源としたならば、さらに音質が向上しただろうに・・・・。


ビデオ入力系の回路
背面に設置され、シールドされている。右上から伸びてくる配線が、専用トランスからの電力線。なおビデオ回路とフォノイコライザー回路は、必要のないときには電源オフとすることが出来る。


フィルターコンデンサーの裏側
終段へは、コンデンサーの端子から直接配線が起こされている。(プリント基板が介在していない)


定電圧回路
東芝製 2SA1306/2SC3298が使用されている。


東芝 D880, B834, 松下 B7504, D8364
この辺は情報がないので不明だが、定電圧素子もあるようだ。


終段の素子は3パラレル
全て銅製のチップを挟んでヒートシンクに固定されている。


東芝製 2SA1265N/2SC3182Nが使用されていた。PM-88SEFにも使用されているオーディオ用パワートランジスタ。
180mW; V(cbo): 140V; V(ceo): 140V; V(ebo): 5V; I(c): 10A; 100W; silicon NPN triple diffused type transistor. For power amplifier applications
現在は廃番であるが、また入手は出来る。しかし本当に東芝製の半導体が沢山使用されている。私の所有したアンプの中でも異色の存在ですね。


上からPIONNER A-838, SONY TA-F333ESA, SONY TA-F555ESL,


SONYのアンプより奥行きがある。奥行き471ミリもあり、私の所有していえるオーディオ機器の中では一番奥行きが長い。

重量は30キロ近く、重心も左側に酷く偏っている。写真の位置は実は床から160センチくらいあるのだが、ここに持ち上げるときは手の関節を痛めるかと思った。実測でも私がかつて所有したオーディオ機器の中でも、最も重い機器である。

ここでは紹介していないが、サイドウッドの取り受け穴を埋めるクッションセットというものが本来付属している。音質向上に効果がるとか・・・・。またスピーカーターミナルダンパーというものも付属していたようである。スピーカーコードを接続した後にターミナルダンパーをスピーカー端子の形状に合わせてはめ込むと、スピーカー端子の鳴きを抑えて音質向上に効果があるらしい。

 

1989年の長岡鉄男ダイナミック大賞部門賞を受賞しています。
パイオニアの10万円台のアンプは久しぶりである。A-150D(当時118000円;18キロ)以来ではないだとうか?A-90D(当時220000円;29.3キロ)というのが発売されていたが、A-90DはDAC内蔵アンプで価格差も10万円あるので、比較対象にならないと思っていたが、調べてみるとA-838はA-90DのDACレスバージョンではないかという気がした。寸法は殆ど同じ(幅で2ミリ大きく、奥行きで4ミリ小さい)で、実測の重量で2キロ減少。電源、ヒートシンク、ボリュームノブ、コンストラクションなどすべて同等である。
 サイドウッドパネルは840g、ボンネットは1860g、脚はモールド製でデッドスペースにエポキシ樹脂を充填して50gあり、A-90Dより進化している。別にトランスを支えるための鋳鉄製の足があり、これが250g。これは90Dと同じだ。シャシー、シールド板は両面塩ビ貼り鋼板のハニカムプレスで、丈夫で鳴きにくい。ACケーブルは平打ちのキャブタイヤでOFC。ボリュームノブは無垢で135gある。セレクターノブも無垢で40g。電源トランスは鋳鉄ケース入りで、ケースのサイズは120×115×95のものが2台、(中略)

消費電力、出力はA-90Dと同じ。ということは音質的にはむしろA-90Dを上回っているのではないかと思う。このアンプは自宅のほかに、オーディオフェアや読者宅でも鳴らしてみたが、いつどこで、どんな組み合わせで鳴らしても十分に持ち味を発揮できる万能型万人向けのアンプという印象を受けた。独特のサウンド言うのはなく、オーソドックスなHI-FI、明るく(明る過ぎず)切れが良く、適度のメリハリがあり、繊細感もあり、パワフルでスケール雄大、ハイCP機である。

お荷物のDAC降ろして超CP

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