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サンスイ AU-α707L EXTLA

最終更新日  2010年1月14日

AU-α707シリーズの系譜
AU-α707 1986年 129000円 20.3キロ AU-D707XDからデザイン一新
AU-α707i 1987年 129000円 20.5キロ
AU-α707EXTLA 1988年  
AU-α707L EXTLA 1989年 145000円 22キロ オーディオ用バイポーラトランジスターの最高峰NM−LAPTを パワーディバイスに採用。
AU-α707DR 1991年 150000円 22.5キロ DRというのは、デジタルリファレンスという意味。
AU-α707KX 1992年 170000円 22.5キロ
AU-α707XR 1993年

170000円 23キロ パワーアンプ初段にウイルソン・カレント・ミラー・ブーストトラップ付きの高CMRR型定電圧回路を使用したhyper- α‐Xバランス回路搭載。907XRではトーコンは非装備だが、707XRには装備されている。脚は透明樹脂製。

AU-α707MR 1995年 185000円 23.5キロ 特殊構造楕円インシュレーター  WBT社製スピーカーターミナル
AU-α707NRA 1998年 200000円。新開発Ultimate α‐Xバランス回路。ドライバー段の電流マージンを従来の 2倍に高めAクラス動作することにより、理想的な伝送・増幅環境を実現。 ・メカニカルフローティング方式の電源トランスのとりつけ、共振を効果的に分散する新形状の放熱器により電源系の振動を基本構造から解消。 重量23.6Kg


AU-α707iとの外観の大きな違いはサイドウッドの有無。ワンランク上の製品に見えます。他にもスピーカー端子の切り替えがプッシュボタンからツマミ方式になっているなど若干の変更もあります。


左 707i  右 707Lextra


このmodeから非磁性体の増幅素子NM-LAPTが採用されました。
なおこの表示はシールで貼ってあるだけです。

LAPTとは基本的にバイポーラーのトランジスタですが、マルチエミッター化によって、オーディオ専用として必要な高域の遮断周波数を高い周波数に設定できます。通常のトランジスタが5〜20MHzの遮断周波数を、3倍以上の50-60MHzにまで大幅に改善しました。LAPT自体は本来高周波用のトランジスタで特に目新しいものではありません。AU-α707iにもLAPT素子が使用されています。本シリーズに採用されたNM-LAPTとは、純銅材の採用とボンティングワイヤーに至るまでのメッキを排除したオール非鉄化によって、LAFTを完全に非磁性体化し、電流増幅率のリニアリティとスイッチング特性を向上させ、動特性の改善を図ったものです。製造メーカーのサンケンでは生産ラインの変更まで行って、この素子を生み出しました。

このNM-LAPTの採用によって、逆に周辺パーツや機構に対して厳しい要求を突きつけ、またそれが如実に音に反映される感度のよさを持っているために、通常の回路定数を決定した後に行ったカスタムパーツのによるチューン・アップは試行錯誤の連続で多くの時間と忍耐を必要とした。また電源トランスも前モデルより、材質・構造ともに徹底的な再検討を行い、数多くの視索を繰り返した後に完結したものを搭載しています。

サンケン電子では 様々なオーディオ用トランジスタ・MOS-FETを出荷しています。KENWOODが謳っているTRAIT(TRAITR) もサンケン電子製です。

TRAIT(TRAITR)
温度補償機能入りオーディオ出力用コンプリメンタリトランジスタ; 温度検出・補正回路をパワートランジスターに内蔵して、ワンチップ化に世界で初めて成功した5本の端子を備えたファイナルトランジスター。 温度検出素子がトランジスターと同一チップ上に置かれているため、リアルタイムで温 度を検出し最適バイアス電流に制御します。SAP16P/SAP16Nなど 2006年現在Pc(W)により3種類のペアが販売中。

重さは実測21キロとAU-α707iの2キロ増。

回路的にはα−Xバランス回路とニューダイヤモンド差動回路を採用、スピーカーのドライブ能力を大幅に向上させ、さらにNFBや電源回路までバランス動作とし、外来ノイズや歪の発生を抑えている。回路的にはそれほど特殊なものではなく、いわゆるBTL接続のアンプが基礎である。初段のFETはカスケード接続になっており、高域特性の改善や接続機器とのインピーダンスの整合性が高まった。内部構造においてもNM-LAPTのよさを生かすべく、非磁性体化が進められている。これらは<平成>の時代のスタートと同時に、1990年代に向けてのメッセージであった。


正面パネルのツマミ類は無垢ではなく軽量級


天板は天井を6箇所でネジ止め


サイドはサイドウッドと共締めで4箇所ネジで固定。
サイドウッドはMDF製 TA-F333ESRのように天板をdumpするような構造にはなっていない。


天板は良くあるコの字型の構造。強度は弱い
筐体には上記のように天井6箇所・左右合計8箇所でネジ止めされるが、ダンプはされていないので叩くとある程度の音はする。


レイアウトは電源部を中央に配置した左右対称構造
この点も707iとの大きい違いです。


AX-2000との比較。
トランスは同サイズ程度。


メインの電解コンデンサーの下に定電圧回路が配置されている。


メインのコンデンサーは707iと全く同じ製品で同じ容量。
Pure Focus 80V 6800μF ×1本


Great SUPPLY 80V 12000μF ×1本


少しであるが 銅メッキされたネジが採用されている。


アンプ基板は左右に完全に独立。

また左右それぞれのアンプ基板は上側と下側の基板に分割され 左右合計4枚の基板でパワーアンプは構成されている。


上側の基板と下側の基板の間にNM-LAPT素子が配置されているが、パーツの影になっており直視出来ない。



ヒートシンクは青いテープでdumpされている。


向かって右手にはイコライザーなどを搭載したプリ基板があります。


707iと同じような黒いコンデンサーが多用されています。


フロントパネルのスイッチから長いシャフトを通じてスイッチが駆動されています。
このシャフトの除去が面倒なのでプリ基板の詳細は見ていません。


正面 向かって左側のboxにはヒューズしか入っていません。


私が入手した707LEXTRAは オリジナルとは異なる足が装着されている可能性があります。


外見は立派ですが・・・・


中身は空洞で軽量です。


底板は1ミリくらいの厚み
スリットの位置がヒートシンクの位置にあわせて変更されているが、根本的には707iと同じ構造


パワーアンプの下側の基板が見える。

LAPT素子は残念ながら 大掛かりな分解をしないと見えない位置に固定されている。


定電圧回路
707iと違ってフィルムコンデンサーが目立たない。



AWFというコンデンサーが多用されている。
707iに多用されていたAWDの継承modelでしょう。


電源コードは707iと同様の細めのコード

CDP-555ESDやTA-F333ESRより細い。交換したいがコードが筐体に入った直後からごらんの有様なので交換作業は大変そう・・・。


バックパネル


707iのバックパネル
 


フロントパネル 707L EXTRA


同 707i

 

詳細は避けるが、1990年代になると、他社の多くに<元サンスイ><前サンスイ>という社員が増えた。いわゆる平成不況のあおりもあるが、それ以前から同社の営業実績にはかげりがあり、合理化、人員整理が進められた結果である。その結果サンスイは顔の見えない、陰の薄いメーカーになってしまった。勿論他のメーカーにも大なり小なり同じようなことろがあったが、経営母体の貧弱な同社の場合、それが顕著に出てしまったのだろう。かつては<サンスイ>の看板を一人で背負っていたような方も流出され、自立した人も多かったと伺った。

1990年以前は チューナー・CD・アンプ・スピーカー・サラウンドプロセッサー・DAコンバーターなど多岐の製品を発売していたが、1990年以降は 次第に人的物理的資源をアンプに集約して、他の製品はしだいに整理された。

この後に AU-α707DRが1991年に発売されるが、失礼ながら もう私の記憶には残っていない。かろうじて同年10月に発売されたAU-α607MOS-PLEMIUMは覚えている。1991年以降のサンスイの製品は非常にレアで、小有している人は是非、大切にしてほしいものである。

その後紆余曲折あり、株価は急降下。香港のセミ・テックに買収され、1993年ごろには従業員は最盛期の1/10になってしまう。(従業員のピークは 1972年の2244名) 役員や株主には外国人が名を連ねたが、製品の質は最期まで落ちることは無かった。やがて国内の生産拠点も失い、アフターサービスも他社に業務を移管された。

2006年現在 会社は残っているが、一体何をしているやら不明である。一時は海外製の激安液晶Tvの輸入などをしていたようだが・・・・。

 

音質のインプレは こちらを参照(別窓)

1990年の9月と11月のステレオ誌で石田善之氏のコメントがありました。(一部要約)
上級機の907L EXTRAと同じく NM-LAFTを採用した製品。回路構成はXバランスということで電源部もバランス電源。音はレンジが広く、のびやかで姿かたちが美しい音になる。適度に厚みがありながら分解能に優れている。 またNECのA-10Xが引き締まった力強い低音、全体のサウンドに勢いがあり、しっかりとした音の輪郭を聴かせるのに対して、このアンプは比較的ゆったりと穏やかであり、A-10Xとくらべるとやや散漫かなと思うくらい、たっぷりとしたものがあります、しかしサウンドの奥行き感や音の持つ暖かな表情感がでています。一方サンスイの下のグレードであるAU-α607L EXTRAと比較すると、しっとりした中に音の張り、艶などをきちんと出し、ポピュラーモノのベースの鳴りっぷりの良さと輪郭をキチンと保って、607と差をつけている。

1990年6月のステレオ誌では 入江順一郎氏のコメントがありました。
中間機種であり余り目立たないが、本機は弟分の607L EXTRAよりも、音の厚みや暖かさがプラスされ、しかもレンジの広い密度感あるサウンドが魅力的だ。音の抜けが良く躍動感もあり優秀機である。


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