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F-201 ハイカノン(20cm共鳴管)-1

最終更新日  2009年9月8日

長岡鉄男氏が、晩年愛用した、共鳴管スピーカーです。・・・・といっても、氏が愛用したのはネッシーシリーズという高さ3メートルを超える共鳴管で、その直前に設計されたのがF-201ハイカノンです。

共鳴管は、長岡鉄男氏が晩年に設計され、最初のスピーカーは、<カテドラル>というスピーカーは10センチスピーカー4個で4本の共鳴管を駆動するという、共鳴管の固有振動の弊害を予め回避すべく工夫されたモデルでしたが、良好な結果に、<カノン><ビッグカノン><ネッシー><ハイカノン>といった、一連の共鳴管スピーカーを設計することとなります。

共鳴管シリーズの誕生は、私も当時FMファンや別冊FMファンで当時見ていましたが、管にスピーカーユニットを付けたようなスピーカーで、マトモな音がするのか、とても疑問でした。

ハイカノンは15ミリ合板を使用して作成されます。底面などは15ミリ厚ですが、それ以外は実質30ミリ厚。差し込み式の共鳴管は15ミリ厚ですが、補強が入っています。ユニットは当時テクニクス(現;パナソニック)の20F20というユニットでしたが、現在は入手不可能。・・・といっても20F20に最適化されて設計されているわけでは無く、要はマグネットが強力で、振動板が軽いユニットだと、何でも使用できるようです。作成当時もフォステクスΣシリーズが候補に挙がっており、206Σの方が緻密でナチュラルなサウンドとなるだろうが、当時の206ΣはWマグネットで磁気抵抗が強く、トータルの駆動力では20F20が有利であるし、AV向きとして派手目なサウンドを狙って、20F20が選択された経緯があるようです。

フォステクス208EΣは、リブ補強された軽量なパルプ振動板や、リニアリティーに優れたエッジ(ただし寿命は短そう)、大口径のマグネットと、使いやすいユニットだと思う。208Sはルックスの点で今ひとつだし、208ESや208ESUも既に絶版で入手困難、手に入っても高価だし、マグネットが強力なユニットにするほど中域のレベルが上がるので、相対的に低音不足になります。208EΣならセッティングやトーコンでカバーできる範囲ですが、208S、208SS 208ESなどとなるとスーパーウーハーが必要になるようです。問題は良質のスーパーウーハーが無いこと。ユニットが強力だと中域の鮮度は上がりますが、結果的に質の悪いスーパーウーハーが必要になるので難しいところです。

最初に断っておくべきだったが、このハイカノンは私が製作したものではありません。東京のある方が、東急ハンズのカットサービスを利用して自作されたもので、製作から10年以上経過している。元々はテクニクス20F20を装着されていたようであるが、ユニットが破損したためフォステクス208EΣが装着されていた(個人的には歓迎)。

 

ハイカノンは、実際 長岡氏のオーディオルーム<箱舟>に設置されたが、氏が使用していた100インチスクリーンと比べると外観で迫力不足だったので、ハイカノンをベースにの3メートルバージョンとしたネッシーが製作されたようです。ハイカノンとネッシーの違いだが、まずは強度が違う。ハイカノンは前述のように最大30ミリ厚だが、ネッシーは最大45ミリ厚で、底板なども強化されており、共鳴管の補強も共鳴を妨げない装着方法になっている。(ただし共鳴管自体は同じ15ミリ厚)・・・ま、これはハイカノンに装甲板を貼り付けるように、製作後にも補強可能であるが、大きく違うのは共鳴管の最初の部分の太さ。ハイカノンの方が絞った設計になっており、ネッシーの方がより直管に近い設計になっている。これはどちらが良いのか長岡氏も判らないと記載している。ハイカノンは絞ったことによってバックロードホーン的は要素が出ているか〜出ていないのか判らないが、少なくとも低音の再生能力は208Sや208ES装着のネッシーより上である。

※208EΣを単純に208Sや208ESに交換すると、中域が3dBアップし、低域が3dBダウンします。ネッシーも最初は206Σが装着されていて、そのときはトーコンで補正可能な領域でしたが、208Sに交換したところ、トーコンでは追いつかないほどの低音不足になり、スーパーウーハーの導入に至っています。ユニットとキャビネットのミスマッチングという可能性に言及する方もいますが、ネッシーU、ネッシーVと専用設計されたスピーカーでも同様の結果でした。

私もハイカノンの導入に際して、YAMAHAのスーパーウーハーを導入していたのであるが、前述のように、結果的に音調が合わないというのもあったが、スーパーウーハーは殆ど必要を感じなかった。トーコンで低域を多少持ち上げるだけで、驚くほどの重低音が再生できる。トーコンを使うとパワーが入らないと思う人もいるだろうが、バスレフ型のように壮大な振動板の空振りがあるわけでも無いし、そもそも100dBを超えるような超高効率のユニットである。これをガンガン鳴らせる環境の人は殆どいないだろう。また原音忠実というのなら、楽器の音はそんなに爆音ではない。ジェット機や自衛隊の音を原音忠実再生というなら判るが、それは騒音テロをいうべきものであろう。

ツイーターはフォステクスのFT90Hを使用し、コンデンサーは solen FASTの0.68μFを接続した。同相で接続。


さて音であるが、実にクセがない音で素直である。拍子抜けしてしまった。SX-900などよりも歪感が少なく、音がスッと出てくる印象がある。重低音の再生も可能で、それでいて振動板の空振りの少ない。能率が高く、それでいてD-55の時に難渋した刺激音も無い。バランスよくまとまっている。リスニングポジションも広く、聴く位置によって音が激変するということもない。優等生的サウンド。SX-900などは、どうだスゴイだろう?と気負った感じがありボリュームを上げて聴いているとそれが苦痛になるときもあるが、ハイカノンはそういうことがない。SS-A5は高域にキャラクターがあり、それが弦楽器と上手くマッチすることがあるが、ハイカノンと比べると音場が狭く分解能に劣る。またリスニングポジションに非常にシビアで、頭を5センチ動かしただけで音が激変するようなこともある。

ハイカノンに共鳴感独特のクセが無いか言われれば、無い!!!と言い切れる自信はない。コントラバスのピチカートなどで、若干ボン付いた感じが出ることがあるが、このような音は非常に立ち上がりの急峻な低音の典型例で、通常のスピーカーでも団子のような音になりがちで、ハイカノンの低域の表現力は悪くないと思う。ティンパニーの音なども、ちょっとボン付く感じがある。

私はチェロを弾いていて、いつも私の後方 2メートルのところで、長身の凄腕コントラバス弾き(女性)が居る。コントラバスの生音は散々聴かされているが、ハイカノンのコントラバスの音は、生音とそう乖離したものでは無いと思う。

トランベットなども、美しい。
勿論 D-55とかD-58にある超絶な迫力は期待できない。
路線がかなり違い、ハイカノンは、より一般受けする音作りになっている。

 


天井までもう少し高さがあるので、少し共鳴管を延長しても良いと思う。設置は重心が高いだけに難しくて、御覧のようにカーペットの上に置くと、フラフラする。背面は壁にベタ付けで良いと思うが、クーラーと干渉するので出来ていない。

液晶TVは、シャープ(株)の40インチである。ハイカノンを使用するなら、50インチ以上のモニターにしたいが、コストの問題、左右のスピーカーの間隔の問題、試聴ポイントの制限がある。写真の部屋は12畳である。ハイカノンは部屋の長軸に対して直行する向きに設置されている。


スタンドが無かったので
手元にある木材で、適応にスタンドを作成。


差込の重複部分は30センチあるが、ハイカノン製作後長岡氏は”30センチもいらないのではないか?20センチでも十分だと思う。しかし30センチの差込を20センチにすることは幾らでも方法はある。20センチのものを30センチにするのは困難だ。”と述べている。また長岡氏が製作したハイカノンは共鳴管をスライドインしたらピッタリ嵌ってしまい、二度と抜けなくなったので、大人数人がかりで箱舟に運び込むハメになってしまった。私が入手したハイカノンは当初左右とも自由に着脱できる状態であったが、左右逆に嵌めこんだらピッタリ嵌ってしまい外れなくなってしまった。結局あれこれ手を尽くして抜くことに成功したが、抜くまでに数週間かかった。

このまま継続使用するのではなく、折を見て透明ニスを塗布してこれ以上の合板の劣化進行を防止したいと思う。また共鳴管も少し延長してみたい。重心が高いので不安定で設置は難しい。現状は絨毯の上に置いているので、グラグラしている。これもなんとかしない。鉛インゴットを乗せるにも乗せるスペースが無い。


長岡鉄男氏自身によるコメントを転記しておきます。

使用ユニット テクニクス EAS-20F20 / テクニクス EAS-5HH10
合板 15ミリサブロク合板 5枚
コンデンサー 0.68μF


箱舟のメインスピーカーは全高2900ミリのネッシーであるが、これは一般家庭には入らない。
天井高が3200ミリ以上必要だからである。
F-201は一般家庭に入る限界を探ったシステムである。
2分割構造で、Uの字型ベースパイプとストレートの延長パイプを組み合わせる方式。
そのまま作ると全高2420ミリ。延長パイプの嵌めこみに失敗すると2500ミリくらいになる。
実際製作したものはそうなってしまった。このままでは一般家庭用には高すぎるが、延長パイプを切り詰めれば
幾らでも低くなる。天井高より300ミリほど低くしたい。

ユニットは、ピュアオーディオ用の緻密なサウンドとしてはフォステクスFE206Σ。
AV向きの華麗に散乱するサウンドとしてはテクニクス20F20が良い。
ハイエンドは不足するのでツイーターは追加必要。
能率が高いのでホーン型から選ぶ。ローコストで中能率でデザインがマッチする5HH10を選択した。
構造は単純明快、1回折り返しの全長3300ミリの共鳴管である。
管はユニット直後で253平方センチで900ミリ降下して折り返し、
350平方センチで2400ミリ上昇する。断面積としては38%増加するが、これが適応かどうか判らない。
全長253平方センチの断面の方が共鳴が強く起こるだろうが、クセも強くなるだろう。
38%ほどでも広くなれば、開口部からの放射効率も良くなるだろう。
延長パイプの下部をサンドペーパーで削り、本体にスライドインさせる。
キッチリはめ込むと二度と抜けなくなる。

コンデンサー0.68μFを使用して同相接続、本体バッフルから5-10ミリ後退させる。
吸音材は不要。

インピーダンス特性を測定すると、低域にピークが3つ見える。おそらく20HZ以下にも山があると思う。
共鳴管が上手く動作している証拠だ。ただの音響迷路になった場合は、ピークは一つだけしかでないはず。

F特性は、低音ダラ下がりだがレンジは広い。3.6メートル離れると高域と低域の差は10dBに減った。
コーナーを利用するなどすれば、もっと低域が上昇するはずだ。

音は予想外にクセが少なく、高能率高耐入力で、もの凄い大音量が出せるし、小音量でもボケない。
つまりDレンジが広いわけで、のびのびとした、あるいはあっけらかんとした開放的な鳴りっぷりは
市販のスピーカーでは絶対に聴けないものだ。
サイズがサイズなので、誰にもすすめられるものでは無いが、コストパフォーマンスの点で推奨品。


改造

改造と言っても 小改良です。

15ミリのシナ合板をホームセンターで購入(サブロクのサイズで、6000円くらい)し、その場でカットをお願いします。
5カットまでは無料ですが、それ以上は1カット50円掛かります〜が、一般的には格安でしょう。


共鳴管の延長を作成しました。


内部は、三角形の隅木で補強。
三角形の隅木は、100円ショップで売っています。
接着剤をたっぶり塗布するのがコツです。

バッフルと底板も、もう一枚合板を重ねる予定ですが、手間が掛かるので作業は後回し。

サブロク合板1枚から、

  • 延長の共鳴管(長さ38センチ)
  • 追加のフロントバッフル
  • 追加の底板
  • SX-900の、スピーカーターミナル(100×205 2枚)@改造用

を切り出してもらいました。


こんなのも作成。
あまった廃材をジヅソーで切り出しました。
誤って自分の指も切ってしまって、木材が血まみれに〜〜

共鳴管の折り返し部分に入れて、共鳴効率アップを狙います。
見える部分じゃないので、カットは適当。


裏板と底板が連結されるので、強度も向上します。
ベタベタに接着剤を塗った反射体(?)を、共鳴管から入れますが、
入れ方にノウハウがあります。

接着剤は底面と横面(片側のみ)と裏面にたっぶり塗ります。
スピーカーを寝かせて横向きにして、接着剤が塗られていない方を下にして、
棒などで、反射体を押して内部に進めます。
底に着いたら、シッカリ押しつけて接着、
ついでスピーカーを上向きにして、裏板にシッカリ接着。
最後に反対側の横向きにすると、重力で反射体が、ずりおちて側板と接着。
もう片方の横板とは接着されませんが、こればかりは どうしょうもありません。

あと、共鳴管の差込も御覧のようにストッパーを追加して
9センチほど浅くしました。差込が浅くなるので、共鳴管が9センチ延長されたことになります。
またユニット裏側の板も、余っていた木片をつかって補強した。

延長した共鳴管を、従来の共鳴管に被せる作業だが、電動サンダーを使って研磨したが大変であった。
電動カンナのほうが良いね。


バッフルと底面に15ミリのシナ合板を重ねて補強します。
これでフロントバッフルは45ミリ厚となり、十分すぎる強度を持つことになります。
底板も30ミリに。
油性ニスで塗装しました。


後ろに取っ手を装着。
これで運搬が楽になります。


共鳴管の本体に塗装してしまうと、スライドインが出来なくなるので
ココは塗装せず 自粛。


ワラン合板とシナ合板ではルックスにも、格段の差があります。


設置。ニスは3回塗って軽く研磨しました。
下には御影石のベース(厚さ25ミリ)を敷きました。これは安定します。
駆動アンプは、YAMAHAのAX-2000です。


固定ビスも、鬼目ナット&ステンレスキャップに交換。

以上の工程ですが、書いてしまえば簡単ですが、3週間以上 かかっています。

さて、測定編です。


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