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KENWOOD LS-G5000

最終更新日  2006年10月19日

1987年発売 170000円(1本) 1本50キロ
サイズ 400W×70D×365H

 

開発されたのは 当時八王子市にあったケンウッド生産本部第3音響生産部技術グループのシステム設計セクション・システム第一担当リーダーであった国井正俊氏、同グループのユニット設計セクションマネージャーであった長谷川修氏、同グループの開発セクションの坂本政勝氏などである。

ベースになったのはLS-1000で 約6年間かけて製品化されたそうです。
(ステレオ 1988年3月号より 引用;一部要約)

狙いとしては技術を表に出したスピーカーではなく、音楽を聞くための道具として作ろうというところに開発意図があったそうです。特に声の帯域、あるいは声の下の方の中低音を充実させて自然感を出すことにもねらいでした。それにより殆どの楽器のファンダメンタルな音である中低音の表現力をうまく出せるのではないかということで、その辺の表現力をアップする技術が投入されています。加えて音の放射性を考慮して中高音の自然感を出そうといったところが開発のターゲットです。

 


バッフルは50ミリ厚 ツイーターやスコーカー周囲は実質70ミリ厚の強靭なバッフルです。

バッフル表面の微弱な振動がスコーカーやツイーターに伝達されるのを防止するために、スコーカーとツイーター周囲のバッフルにレーザーで10ミリの細い溝が彫ってあり、レーザー・プロセッシング・アイソレーションバッフルと呼ばれていました。この技術はLS-202という1980年ごろの製品で既に実用化されているものであるが、このLS-G5000では加工にレーザー光線を使用することにより 溝の幅を0.6ミリまで狭くすることに成功しています。溝の幅が広すぎると、球面波ホーンで放射された音の広がりが乱れてしまうため、極力細い方が良いそうです。実際にレーサー加工の機械を使用して色々とレーザーの出力や加工速度を試行錯誤されてこの形に落ち着いたそうです。ちなみに前面バッフルの下の方に<KENWOOD>とロゴが入っていますが、これもレーザー加工だそうです。

背面は4枚の板材を組み合わせて、内側に凹となった逆ピラミッド型としています。背圧に耐える為と内部の定常波発生を防止する目的があります。この構造がない場合 裏板に270HZの振動が長く残る傾向が出るそうですが、裏板が4分割されたことにより、その傾向は消失しています。また強度も飛躍的に高まり、圧縮強度でいう上から1トンの力で押されて大丈夫だそうです。(単純な一枚板の場合は約400キロで破壊される)

また逆ピラミッドの頂点には左右の板を連結する補強材が渡してあり スピーカーを持ち運びするときには ちょうどよい取っ手になります。その補強材の裏側にはポートがありますが、ポートの長さは板材の厚み分しかありませんので、単純な息抜きとしてのポートのようで、リニアサスペンションタイプというキャビネットになっています。これによってウーハーの振動板の動きの非直線性が改善するそうです。


ウーハーはこのサイズとしては小さめの30センチ。ケンウッドではLS-1000の時代からカーボンに注目しLS-990Aで初めてコーン型振動板に使用されました。物理的には非常に優れた材質でしたが、音質的にはちょっと高い方がうるさいく感じるなどの問題があり、それを何とか解消するのが当時から目標だったそうです。

従来LS-990Aなどで使用していたHRカーボンの繊維をさらに1/3に細くした極細カーボン繊維(3000フィラメント)を織り込んだシートにセラミックスの粉末を混入した振動板を採用している。さらにNS-1000Xのようにそれを7分割して張り合わせてコーン形状に仕上げている。ポリゴナル・カーボンセラミックウーハーと呼ばれていた。バインダーの中にセラミックス粉を入れることで、カーボン繊維+セラミックバインダーを複合化することができ、高い剛性が得られ、さらに鳴きも抑えることが可能になった。

7分割した理由は 平織りのカーボン線維をそのままコーン形状に形成すると、平織りのネック部分に強いストレスがかかり、コーン全体の剛性が確保できない為だそうです。また従来の振動板だと振動板の円周上に不要な振動が乗りやすく、また釣鐘型振動も起きやすいが、それらもこの7分割振動板でキャンセルできるとされています。また分割振動する振動数を高い周波数に追いやることができ、ウーハーの使用帯域から除外できたそうです。


ウーハーのフレームは亜鉛ダイカストで木ネジではなくボルトで固定されている。ユニット自体は実は裏側から取り付けられており、ネジを外しても前側には取れない。フロントに見えるフレームはユニットのフレームとは別のもので、バップルを貫通したボルトで裏側からサンドイッチ式に、50ミリのバッフルを挟み込んでウーハーを固定している。非常に強力な固定でスーパー・プレスロックマウント方式と呼ばれていた。この固定方法でウーハーの磁気回路の振動が従来の固定方だと0.05秒くらい残っていたのが、この方法だと0.01秒で消失し振幅も少なくなったそうです。

マグネットの直径は180ミリでキャンセルマグネットはない。内部の配線もゴツイ。ダンパーは2枚あり僅かに離して固定。エッジレスウーハーが2枚のダンパーを使用するのではなく、+/-でダンパーの非直線性を打ち消す構造、クラスAサスペンションと読んでいた。


クラスAサスペンションの構造と効果


スコーカーは 80ミリのセミドーム式。小さいながらコーンの部分もあります。ダイアトーンのDUDと同じくドーム本体とボイルコイルのボビン部分を一体型で形成されたチタン振動板にダイヤモンドの皮膜を形成させたものでクリスタルプラズマダイヤモンド振動板と呼ばれていました。振動板の色はガンメタリック。LS-990ADでプラズマダイヤモンド振動板が採用されたが、それの物理特性を改良したバージョンです。物理的にはLS-990HGのツイーターに使用されている振動板と同じものです。裏面も処理が施され、ダイヤモンドでチタンをサンドイッチしています。音波の伝達速度は従来のプラズマダイヤモンド振動板が8300メートル/Sだったものが、クリスタルタイヤモンド振動板だと9000メートル/Sに達しています。

またビッカース硬度は 鉄の500-600程度に対して、プラズマダイヤモンドは3000、クリスタルプラズマダイヤモンドは4000kg/m2まで持っていくことができた。またスピーカー振動板にとって必要な軽くて強い、しかも硬い条件と内部損失であるtangを高次元でバランスさせている。

マグネットのサイズは直径156ミリで、トッププレートがそのままユニットのバッフルへの固定プレートになる方式。ダイヤトーンDM(ダイレクト・マウント)方式と同じです。

振動板の周囲には非常に浅いがショートホーンが形成されており球面波ホーンと呼ばれていました。球面波ホーンは昭和58年から59年ごろに研究が始まった技術で、従来の平面波の考えを改めたもので、音像の定位や音の滑らかさの改善に役立っています。単にショートホーンを取り付けたものではなく、精密な計測と計算によって設計されたホーンです。この技術は1987年のヨーロッパAES(オーディオ・エンジニアリング・ソサエティ)にて発表されました。


ツイーターは2.5センチのドーム型 スコーカーと同じくクリスタルプラズマダイヤモンド振動板を採用。球面波ホーンも採用しボビン部分と一体形成されている。ウーハーと同じくクラスAサスペンションを採用。エッジをフロントプレートで隠して不要放射を抑えるインナーエッジ構造となっており、CACD(ダイレクト・インナークラスAサスペンション)と呼ばれていました。


吸音材は大目、ネットワークは分散配置され大き目の素子が使用されている。コイルのコアとしては珪素鋼を採用しています。従来の社内の既存パーツを一新して設計しようということで、新規で型を起こした大型コアのコイルです。そのコアに銅線一本ではDCRが確保できないことから、二本、パラ巻きにすることでDNRを確保しています。

コンデンサーは電解コンデンサーを使用していますが、中のアルミ箔とか電解液を見直して、このLS−G5000のために新しく使用されました。

配線は無酸素銅を使用した極太のモンスターケーブル製を使用し、固定にはハンダを一切使用せずカシメで固定しています。

チューニングも 会社の視聴室だけでなく 色々な部屋で鳴らして調節されたそうです。

 

購入時は NS-1000X モニター2000Xと迷ったが 一番金がかかっていそうな本モデルを購入した。2005年12月現在 紆余曲折ありNS-1000Xを使用しているが 別にLS-G5000が嫌いなわけではない。この機種は かなり以前に売却してしまったので同時には試聴していない。低音の再生能力はNS-1000Xを上回ると思う。20HZの再生でもレベルは低いが再生できていた。音は一言でいうとドライで渋い音。長岡氏もイブシ銀と表現していたように記憶している。ジャズとかが合うと思う。非常に剛性の高いキャビネットを採用。NS-1000Xより剛性は高い。振動板もチタンベースにダイヤモンド層を形成させたもので高剛性。LS-990Aなんかも同じ感じの音造りだった。ユニット・キャビネットともに凝りに凝った構造をしている。バランスのよく非常にクリアなサウンド。ただクリアすぎて生気が無いような気がして売却した。明るく前に張り出す陽気な音ではなく しっとりしたアコースティックなサウンドです。

重さ50キロ 一人で持てない訳ではないが移動には決死の覚悟が必要。以前抱きかかえたまま堪えきれずに落下させてしまった。落下点の畳はざっくりえぐれてしまったが、足に落としていたら粉砕骨折だっただろう。鉛とかコンクリートなどを用いて重くした数値ではなく、必然的に設計したらこの重量になったそうで、キャビネットだけで30キロあるそうです。

1988年4月のstereoでは 以下のような批評をいただいています。

石田善之氏
非常にレンジが広く解像度が高く繊細な音。スケール感があり、中〜低域にかけての密度感は価格上の内容を持つ。ゆったりとのびやかな、ゆとりのある低音ではなく、あくまでもタイトにグッと引き締まって解像度優先型であるのは確かだが、それが聴き手に快適さを与えないということではなく、中〜低域の密度が高いために情報量が多く、豊かさのイメージは十分だ。オケも堂々として一音一音の分解に優れ、特に低音楽器の動きは実に明瞭である。通常のレベルで聴いていてもフォルテはひときわ大きく感じるし、声楽曲では伴奏と声の距離、位置関係、音場性、空間性などは抜群だ。ピアノのソロのフォルテの激しさや演奏の熱気が伝わってくるし、ピアニッシモも部分のSN比の実に良い。弱音の透明性も高い。ポピュラー系のベースは引き締まり、躍動感をかきたてられるようななり方ですばらしいが、もう少し膨らんだゆったりした感じがほしい。専用台に附属の真鍮スペーサーを使用したが細やかさも十分。バランスも良好だ。

金子英男氏
全体にスラリとした誠実な印象を受け、実に軽快であり すっきりと描かれた水墨画のタッチの繊細感がある。細かい感覚も出ているが、全体的に見ると淡白なところとか、薄めの感じがあって、やや音楽の表情が平面的になるところがあり、音像の密度がもう少し増してほしい感じがある。しかし誇張感は少なく、欲張らずに鳴るところは実に素直な印象を持っている。こだわりのない独自の心地よさがあるといってよいかもしれない。ここまで質が上がっているので、もう少しエネルギー感が加わり、特に中低域から低域にかけても厚みが増せば安定感とスケール感が加わるので、より完成度が増す感じである。オーバーな表現のない安心感は良い。

福田雅光氏 (一部 1988年11月のステレオ誌と1990年11月での同氏のコメントもミックスしました)
自然体の雰囲気で再現される高密度な質感が基調になっている。特に中域から低域での素直でしなやかな音質が光り、アコースティック系の細やかさはこのクラスでも群を抜いている。ダイナミック・重厚・鮮明というより、クリーミーな表情を軸として上品なキャラクターの安定した雰囲気が本格的な音楽ファンにとって魅力になるはずである。ボーカルでの穏やかでスムーズな展開はすばらしい。室内楽の質感・音場感も豊かである。音調としてはマイルド系であるが、適度に絞りが効いている。ハイコントラストで各パートを浮き立たせるのではなく、陰影の繋がりのスムーズな展開になるのが特徴。バロック系プログラムでの潤いは見事。のびのびとして抜けも良い。低域は弾力的で締まりは特別辛くしていない。中域・高域もハッとする鮮明な粒立ちよりも細かい表情を出しながらしっとりとした肉付けを醸し出すタイプである。ナチュラルパターンでしなやかな味を引き出す中域を中心に自然な質感を上品に表現するのが特色。中域から中低域での素直なしなやかな音質が光り、こまやかさは群を抜く。重圧よりもクリーミーな表情を出す。
専用のスタンドは附属の真鍮スペーサーを使用するほうがコントラストがくっきりとする傾向で、切れの良いサウンドを引き出せる。立体感が豊かになり薦められるスタンドである。

1988年春のオーディオアクセサリー誌
井上良治氏

実に無駄の無い音である。きれいな音の表現というのがピッタリだろう。専用スピーカー台にセットして試聴したが、トータルバランスで見ると低域方向を優先し、中域や高域がやや遠慮しているという感じである。このあたりはチューニングで解決できそうだ。中域は良く締まり、高密度をキープした形で解像度を楽しませる。高域はこまごまとしたニュアンスを引き出しながら刺激音が無く、聴き易さを演出している。

 

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