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YAMAHA NS-690U

最終更新日  2009年2月18日

オークションで格安で入手。ノークレームの動作未確認品だった。
NS-670とコンセプトや構造など、非常に類似しているので、あわせてご覧ください。

到着後、動作確認すると、下記不具合がありました。そのまま使えるとは思っていなかったが・・・
  1. 両方のスコーカーの振動板が陥没している。
  2. 両方のスコーカーのネットが無い。
  3. 片方のスコーカーの音が出ない。
  4. 片方のウーハーは固着している。
  5. 両方のウーハーのエッジが交換されているが、捻じれてエッジが接着されている。

(1)は口で吸い出した。うええ〜〜苦い。
(2)はどうしょうもない。
(3)はテスターで調べたら断線のようだ。
(4)はウーハーの磁気回路を割って、オーバーホールするしかない。
(5)は再修理が大変なので我慢することにする。

NS-690(初代:1973年発売)の改良モデルで、1975年に発売された。NS-690から、キャビネットや振動板など、細かい変更がなされている。奥行きが増えて重量も5キロ重くなった。

69000円
358W×630H×312D
27キロ
クロスオーバーは 800Hzと6000Hz

  NS-670 NS-690 NS-690U NS-690V
発売 1973年 1973年 1975年 1980年
価格 33000円(1個) 60000円(1個) 69000円(1個) 79000円(1個)
重量 20kg 22kg 27kg 27kg
サイズ 320W×575H×270D 358W×630H×291D 358W×630H×315D 358W×630H×315D
ツイーター JA-0509 JA-0509 JA-0509B JA-0509C
スコーカー JA-0601 JA-0701 JA-0701B JA-0701C
ウーハー JA-2501A
振動板の材質は
NS-690と同じ
JA-3056
センターに息抜き穴
JA-3060
NS-1000M(JA-3058A)の
改良型ウーハー
スプルース繊維振動板
JA-3060A
ピュアスプルース振動板
出力音圧 88dB/W/m 90dB/W/m 90dB/W/m 90dB/W/m
形式 密閉方式 密閉方式 密閉方式 密閉方式
マルチアンプ 未対応 対応端子あり 未対応 未対応
エッジ 布製 布製 ウレタン製 ウレタン製
左右の区別 左右共通 左右共通 左右共通 左右対称
ネットの色 白色 白色 黒色 黒色


これがNS-690(初代)です。
ウーハーの形状や素材が異なり、鑑別点が多い。

 


ネットは比較的綺麗。


NS-670とは色が違うが、張り替えた様子も無い。NS-690Uは最初からこういう色なのだろう。


裏板のネジ止めは、無くなった。またNS-690(初代)にあった、マルチアンプ用の端子もなくなっている。 スピーカー端子がワンタッチ式なのは変わっていない。


NS-690やNS-670は、側板は積層合板が使用されていたが、NS-690Uではパーチボードになっている。


ネットワークはスピーカー端子裏に、集中配置されている。1階がコイル、2階がコンデンサーになっている構造は、NS-1000MやNS-670、NS-690(初代)と同じ。

2.5μFのコンデンサーは、ツイーターのローカット用
3.5μFのMPコンデンサーは、スコーカーのハイカット用
18μFの電解コンデンサーは、スコーカーのローカット用
33μFの電解コンデンサーは、ウーハーのハイカット用


ツイーターは問題なし
品番はJA-0509B
マグネットのサイズは直径80×20mm
NS-690やNS-670はJA-0509が使用されている。外見上は何が変更されたか不明だが、おそらく振動板関係の小変更だろう。


スコーカーは、本来あるはずの網がありませんでした。


品番はJA-0718
マグネットのサイズは直径120×20mm
これはNS-600やNS-500Mのウーハーと同じマグネットのサイズである。




吸い出したが、若干歪が残った。



バックキャビティと中の吸音材


トッププレートを外した。
振動板の内側にもグラスウールが詰めてある。


ボビンはFRP製で、空気穴があけられている。
テスターで調査すると、ボイルコイル本体で断線しているようだ。さあいよいよ深刻であるが、ボイルコイル自体には激しい損傷はないのが不幸中の幸い。


怪しいところ その1
緑青(銅の錆)がありました。腐食しているようです。


怪しいところ その2
コイルの一部が変形しています。亀裂が入って断線しているかもしれませんが、肉眼的には判断不可。コイルは3巻き分が変形しており、2巻き目が一番強く変形しています。ここが断線していると修理は困難です。


まず<怪しいところ その1>をカッターナイフの先で擦ると、ボロボロとコイルが脱落しました。やはり腐蝕が著しいようです。断線箇所はここですね。


腐食した部分を除去して、少しコイルを解きます。そして先端をヤスリで研磨して、表面のエナメルを除去してハンダ付けをします。絶縁テープでショート防止をして組み立てます。


無事に音が出ました。大成功!


キャビネットの内部補強は、原則的にNS-670と同じ。
ただしスピーカー端子がスコーカー裏に移動し、ウーハー裏にウーハーの抜き穴が貼られている点が違う。針葉樹系の高密度パーチボードが使用されている。バッフルと背面は25ミリ、側面と天地は20ミリ厚である。


吸音材のグラスウールは赤く変色しており、パーチボードの破片や錆、カビと思われるものが散乱している。吸音材は捨ててしまいたいというのが正直なところ。


固着しているウーハー
エッジの素材は純正ではない。交換してあるのは良いが、取り付け不良である。エッジに皺があるのが判るだろうか?


予想どおり、磁気回路は腐っている。
品番はJA-3060
マグネットのサイズは直径152×20mm
振動板の材質はNS-690(初代)やNS-670と違い、NS-600に近い印象だ。元々NS-1000Mのウーハーをソフトドームに合うように、小変更を行った製品らしい。ピュアスプールス振動板ではないが、スプールス材の木材繊維を使用したコルゲーション入り振動板を使用している。スプールス材というのは、グランドピアノに使用する高級木材です。


汚い・・・


マイナスドライバーでこじって、隙間にスクレーバーを挿入。


さらにハサミを挿入。ボイルコイルを傷つけないように注意が必要。


外れた。
酷く錆びている。白い物体はカビだろう。 湿気があった。


あー汚い。 プレート部分です。クリーム色のものは硬化した接着剤です。


マグネットには、接着剤は残らないが、白いカビがベットリ残る。ふき取ればすぐに綺麗になる。


ヨーク部分。センターポールには磁気歪の発生を低減する銅キャップを被せて、3次高調波歪を低減している。


何やってるの〜〜と子供たちが集まってきた。


マグネットはすぐに綺麗になった。一応サンダーで研磨した。


これからが大変・・・・。
スクレーバーで硬化した接着剤を剥離します。 マイナスドライバーと金槌を使って、ノミの要領で削ってもOKです。

念のため 動作している方のウーハーも確認してみると、これもサビサビで最悪な状態。
音が出ているが、一緒に分解することにした。


センターポールも脱落しましたので、あわせて清掃しておきます。


マグネット接着中


センターポール接着中。
新聞紙に包んであるのは、鉛のインゴットで1個5キロ。
センターの穴にドリルの刃を挿入して、センター出しをして固定した。


センターポールの方は、綺麗に接着できた。
マグネットは失敗。片方が少しセンターからずれてしまった。
修正は不可能。重しを載せた後にズルズルと横に摺れたのだろう。実用にはなるとは思う。

今日はここまで・・・・・・・・・(1日目)


作業2日目

マグネットにセンターポール部分を接着する作業は難しい。
この一連の工程の中で山場である。そのまま単純にマグネットにセンターポール部分をはめ込んでも、真ん中に固定できない。磁力で引っ張られて偏芯してしまうのだ。もちろんその状態ではボイスコイルが挟み込まれて固着している。人間の力でどうにかなる程のものではないので、偏芯しないように強制的に中央部に固定する治具が必須である。

これを製作したが、強度不足で見事に失敗。ハンパな力ではないのだ。磁力でエポキシの接着剤がバリバリとはがれて、補強に使用した釘も曲がってしまった。


大失敗の冶具
そもそも、どちらの方向に押せば、固着が解除されるかが全然わからない。



結果的に片方のウーハーは固着したまま接着してしまった。
大失敗。もう片方も成功しそうにも無い。冶具そのものから再製作する必要があるので、どうやら修理を断念するしかないようだ。情けないレポートで恐縮です。


作業3日目

固着したまま接着したウーハーであるが、なんとかリカバーできた。マグネットとトップフレームの接着にエポキシではなく、ビニル樹脂系の接着剤を使用していたのが勝因(?)で、色々な工具を使用してマグネットを引き剥がすことに成功した。


さあ これをどうやって接合するかが問題。
要は磁気回路が組みあがると同時に、猛烈な磁場がスピーカー内部に発生して偏芯してしまうのである。トッププレート、マグネット、ヨーク このうち2つを組み合わせるのは容易である。しかし最期の1つを組み合わせる段階で偏芯してしまう。組み立て順序を変えても同じである。


センターキャップを外してみた。シンナーを塗ってみたが取れる気配なし。ゴム系かシリコン系の接着剤のようで、シンナーには溶解しないようだ。下から持ち上げてカッターナイフで綺麗に剥離できた。


センターキャップと同じ直径の筒を製作した。


これを組み合わせる。
厚紙でもクリアランスがギリギリである。もう少し厚みのあるプラスチック板でも筒を製作して試してみたが、この方法は実際に接着をしてみないとうまくクリアランスが確保できているかが判らない。つまり一発勝負。

接着してから筒を引き抜いて、振動板が動くかどうか・・・・いやそもそも筒が抜けないかもしれない。ボビンの厚みと筒の厚みを比較するなど色々検討して、結局 この方法も失敗する可能性が大と判断して断念した。



というわけで、入手しました。NS-1000Mのウーハー


品番は JA-3058A
このウーハーも、少しさびていますが、固着には至っていません。


金網は不要なので、除去します。綺麗に見えても金網を除去すると中は埃だらけです。NS-1000Mのウーハーには、塗布剤の違いによって、振動板の白いものと黒いものがあります。これは白い方のようです。


金網はこの写真のように、下の部分が広がっています。まずゴムを千枚どうしなどを使って、上手に取り外してから、金網を除去しましょう。


フレーム側には厚紙が残ります。これをマイナスドライバーで削り落とします。エッジを破らないように注意が必要。


除去終了。


振動板を塗装します。塗装に使用した薬剤は、合成樹脂+カーボンブラック+水の懸濁液 です。原液をかなり薄めて使用しました。5回ほど重ね塗りをします。左右を同時に、を比較しながら塗装しましょう。

合成樹脂+カーボンブラック+水の懸濁液 歴史は以外に浅く、一般に販売が開始されたのは昭和30年になってから。主に初心者向けの塗料として、書道に使用される(笑)。

なんでそんなもので塗ってしまうか?といえば、耐水性のあるインクなどの場合は、どうしても成分中の樹脂の量が増えてしまい、その分振動板が硬化してしまうからである。



エッジも塗装します。金網を除去した跡は隙間が出来て目立ちますので、その部分も塗装します。

その後4畳半くらいの部屋に除湿機を3台持ち込んで、朝まで全開で運転させます。勿論部屋は密閉します。磁気回路内部に結露した水分を蒸発させ、腐食の進行を止めるためです。

キャビネットに取り付け。
ウーハーへの配線は、豆電球に継げるような細い配線なので。3.5スクエアのOFCコードに交換しておく。またネットワーク回路も極力プリント基板を通過しないように、配線を変更した。



試聴開始。
比較対照はNS-670
似たような音がするかと思ったら、結構音が違い、驚いた。NS-670と比較すると、音の傾向の差こそあれ、音質的な差はそれほどありません。NS-670はワードレンジでやや端整な音調で。NS-690Uは明瞭で明るい基調です。

私の音のコメントはこちらを参照してください。


SX-900と比較すると、一聴して全然違いますね。音離れの良さ、空間の再現、残響音が消えていく感じ、ピアノのタッチ、分解能など、SX-900が優れています。NS-690シリーズのマニアの方々には申し訳ありませんが、NS-690Uは、音のスケールが小さくまとまって団子になっている感じがします。音の左右への広がり、FレンジなどもSX-900の方が良くて、まさに格が違うという感じです。NS-690Uの良いところは、中域で耳に付く音が少なくて、音がやさしいことですね。でもSX-900で音楽を再生しながら、パッとNS-690Uに切り替えると、吹き出すほどじゃないけど、ニヤっと笑ってしまうほどの音の差があります。

http://0481.rocketspace.net/SX900NS690-1.wav バッハ無伴奏チェロ組曲
http://0481.rocketspace.net/SX900NS690-2.wav モーツアルトピアノ協奏曲
最初がSX-900で、その後NS-690Uに適時切り替えています。
音がパッと開けて聴こえるのがSX-900で
奥に引っ込んで、小柄な感じになるのがNS-690です。
アンプはAU-α707L-EX CDはSONYのXA5ESなので、かなり音に艶が乗る組み合わせで、この組み合わせで聴くなら、ピアノソナタなどは、NS-690Uの方が良いかもしれません。ピアノをメインで聴くなら、CD-α717DRと、PM-88SEFとかの組み合わせが、SX-900にあっていると思う。

http://0481.rocketspace.net/NS690SX900.wav
もう一つ追加しました。
ブラームスの交響曲4番の4楽章の冒頭です。
最初がNS690U、後半がSX900です。共に1分くらいの演奏です。
切り替えて聴くと良く判るのですが、1分ずつ聴くと、差がわかりにくくなりますね。
アンプはSU-MA10、CDは、PD-T6に変更しています。
こちらの方が音が大人しい組み合わせになります。
ちなみにDACはSU-MA10の内蔵DACを使用しています。
PT-D6のDACを使用すると、少し音に張りが出ます。
スピーカーまでの距離は2.5メートルくらい。
低音のエネルギー感の差とかは判りやすいと思います。
実際は残響の感じとかも、結構差があるのですが、この録音では判りにくいですね。
実際の音はもっと迫ってくる感じがあるのですが、ZOOM H2での録音ですので
若干 あっさりした感じの録音になります。

 

NS-1000Xとは、音の傾向が似ていますが、ローエンド・ハイエンドともNS-1000Xがずっと伸びていて、重心の低さ、エネルギー感、音の張り、音の広がりなどで、かなり差が付きます。キャラクター的に似ていると申しましたが、さらにそのキャラクターを明確にしたような感じで、ここまでいくと好き嫌いが・・・というレベルに近いかもしれません。

オーディオ解体新書>YAMAHA NS-690U