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PIONNER PD-T06

最終更新日  2006年9月14日

 1990年-1991年ごろの発売
正確な資料が今はないので 詳細は不明
当時の価格 12万円(税別)

W440 D330 H130  重量10キロ
SN比 115dB以上


20kHz以上の高音も出力するレガート・リンク・コンバージョンを搭載したモデル。あくまでも出力するのであって、再生するのではない。判りやすく言うとサウンドプロセッサーの一種でCDに記録された情報を元に、カットされてしまった20kHz以上の高音を創生して付加する機能です。

パイオニアのホームページには以下のような紹介文がありました。(※1)
CDフォーマットでは、記録される周波数の上限は20kHzまで、量子化ビット数は16ビットと決められています。しかし、自然界の音や楽器の音には20kHz以上の周波数成分や量子化ビット数の最小分解以下の微小レベル成分も含まれています。つまり、厳密にいえば、CDにはオリジナルの信号波形そのものが記録されているとは言えません。
そこで当社は、CDフォーマットではカットされている20kHz以上の周波数成分を推定して生成する"レガート・リンク・コンバージョン技術"を開発しました。

※1;パイオニアは ピュアオーディオから殆ど撤退してしまったので、2006年現在この機能を搭載した機器は、すべて発売中止となっております。


ターンテーブルメカニズム
ここにCDは裏返しにセットする。

1990年12月のステレオ誌に ターンテーブルメカの開発の経緯について触れた紙面があったので要約して掲載しておきます。

最初のこのメカニズムを採用したのは1990年に発売されたPD-T07が最初である。1989年冬頃から開発を始められた技術である。同社はその頃すでにディスクの振動やスピンドルモーター周囲の振動を抑制すると非常に音が良くなることに気づいており、それらを効率的に具現化する方法としてターンテーブル方式の開発をスタートさせた。それ以前は他社と同じように(当時のA&DやTEACなど)クランプ部分を大型化したディスクスタビライザーで対応しようとしていた。勿論ディスクを上下逆にセットすることは同社としても抵抗があったようだ。また丁度パイオニアとしては他の企画が進行中であり、このターンテーブルシステムの開発は水面下で開始さSれた。試作されたメカは、他の試作メカ(比較的高剛性のメカニズム)を凌ぐ音質を示し、正式に企画に提案された。その時点でも社内にはまだまだ反対の声もあったと聞く。それほどディスクを反対にセットする行為にはアレルギーがあったのだろう。

 従来のクランパーやディスクスタビライザーというのは、ディスク全面で支持できないので、ある特定の振動周波数を狙って設計されていたが、このターンテーブルメカではディスク全面で支持できるので、色々な周波数の固有振動を抑圧できた。ピックアップは当然ディスクの上に行くことになり、それを下向きに設置することはそれほど難しいことではなかった。しかしスピンドルモーターは、ディスクの上と下 どちらに設置するかで悩まれたそうだ。原理的にはアナログディスク(要はレコードプレーヤー)のように下に設置した方が部品点数が少なくて済み、容易に思われた。しかしピックアップとスピンドルモーターの関係というのは、精度上かなり厳密なものであり、それがディスクをはさんで上下に泣き別れというのは色々問題があるようで、最終的にスピンドルモーターは上側に設置されることとなった。ディスクは単にターンテーブルに置かれるだけではなく、空気圧などで吸着するという案もあったが、メカニズムが複雑になりすぎるために見送らた。クランプの方法はマグネットとスプリングの2方法で比較検討がなされ、最終的にはスプリングでのクランプとなった。

ターンテーブルもディスクと一緒に回転させるので、モーターも通常のメカの4倍以上のトルクを持つホールモーターが使用された。なおノイズを避けるためにブラシレスとなっている。シャフトについては直径4ミリの極太のものが採用された。またピックアップの駆動にリニアモーターが選択されたのも、単にレスポンスが良いというだけでなく、接点がなくノイズも少ないという観点からである。ピックアップそのものは従来のPD-5000(20万円)とかPD-3000という高級機で使用されていた、通称クリーンレーザーピックアップがそのまま使用された。

ターンテーブルのシートについては、低反発ゴムが採用されているが、これについてもフェルトやスポンジ状のものなど複数試作品が作られて音質比較がなされた。素材によって高音は素晴らしいが低音が駄目とか繊細だがちょっとあいまいさを残すとか色々あったということである。ターンテーブルの直径は決まっているにしても、その重量や慣性の大きさはアナログプレーヤーのようにひたすら重ければ良いというものではない。CDは内周と外周では回転速度を変える必要があるので、モーターを含めたサーボ・制御系の消費電力が大きくなり、オーディオ系の電源にも影響が出て音が悪くなる。これについても 様々な慣性をもつターンテーブルが試作されテストが繰り返され、落としどころを探る作業が続けられた。

DACについては、1ビットタイプの自社開発チップを採用している。以前はマルチビットのDACを採用していたが、社内にも最終的な音がよければ・・・ということで特に1ビットを避けるような流れはなかった。しかし当初の1ビットDACはノイズシェイパーの再量子化の周波数が32倍から64倍程度しかなく、帯域内へかなりノイズがかぶさっている状況であった。そのためパイオニアではこの辺の動向を含めて性能面、それから音にわたる影響度合いを考えて、1ビットタイプを採用してこなかった。PD-T07に採用された1ビットDACは192倍という高い周波数を持っている。これなら帯域内のノイズが押さえられ、音質、性能面でよいだろうということで採用された。1ビットDACの欠点として、ジッターの影響に弱いというのがあり、これを抑えるために従来の1ビットDACより低い16.9MHZでコントロールするシステムとした。


シートは取り外せる
これを交換しても音が変わるらしい。
ただし今となっては、交換用のシートは入手困難。
器用な人ならホームセンターで販売されているようなもので様々なタイプを製作できるだろう。

 


ケーブルは交換できないが、割と太いキャブタイヤケーブル


コンセントにLのマーク
アースのマークだろうか?


底板は以前同社が行っていた銅メッキ鋼板のハニカムプレス加工ではない
なんとハニカム・・・模様になっていた。
これには唖然・・・

これはコストダウンというより、方針転換らしい。
薄い鋼板をプレスしてハニカムリブをいれても、材質としての厚みがないために振動を充分に抑えれないという判断で、多層構造とする方針になったようだ。


(参考)同社のPD-8070の底板
銅メッキ鋼板のハニカムプレス加工がされている。

 


過去に2度 メンテナンスを受けているようだ

 


ネジ8本で取り付けられている
脚は一体式で取り外せない。
メカの真下に5本目の脚を持つ。

 


取り外したベース
正式名称は不明
触った感じは 単なるプラスチックだが、ガラス強化樹脂で形成されている。
重量は 1kg

 


旭ガラス製

 


パネルを取ると 本来のシャシーベースが露出する。
やはり電気的なシールドの意味で、鋼板の底板は必要と判断されたと伺う。
PT-D07では、銅メッキされていた。


天板は コの字型で軽量
防振対策はない
サイド左右各2本、トップ4本、リヤ3本のネジで固定

 


内部構造
内部のネジもすべて銅メッキ
メカ周りも銅メッキパーツが多い

電源トランスは2個

松下製コンデンサー


日本ケミコン社製 VX(M)コンデンサー



電源コードは4芯であることがわかります。

 


サーボ・信号処理系LSI
SONY製 CXA1081

 


メカニズム部分

 


ピックアップ移動用のリニアモーターが直視できる。
通常はトレイやメカのベースの下にあって
あまり目に触れない部分だ。

 


ターンテーブル駆動用のモーター
モーターはCDの上に位置する。

 


アナログ基板
高品位な基板が使用されている。
取り外そうとしたが、かなり困難そうなのであきらめた。
この下にデジタル系の基板が設置されている。


ちょっと角度を変えて ストロボを使用しました。

 


アナログ基板への電力は、写真左の6本の線で供給される。

 


日本ケミコンのASコンデンサー
広い温度に対応し、DC異常電圧にも強い特殊コンデンサー
本来オーディオ用ではない

 


分厚い銅板が左右チャンネルの真ん中に設置されている。

 


レガートリンク・コンバージョンのチップ
銅製のシールドに覆われていて本体は見えない。
左右独立で搭載。

 


オリジナル開発のパルスフローD/AコンバーターPD2028B
左右独立で使用している。
詳細は不明
周囲には 日本ケミコンのVX(M)コンデンサーが6本

PD-T07/PD-T05では フィリップス製のビットストリームDACが採用されていた。

 


出力段付近のコンデンサー
ELNA製であるが、品番などは不明



新日本無線(JRC)社製の5532ローノイズタイプのオペアンプ

これと数個のトランジスターで最終のアナログ回路を構成している。

当時の雑誌広告をそのまま引用しておきます。(以下)

聴かせたいのは、響きのすべてだ
WIDE RANGE TECHNOLOGY

人間の可聴帯域を越えて、なお語りかけてくる音のために。
20kHz以上の超高域まで再現。パイオニアのCDプレーヤー PD-T06

生で聴く音楽に酔う。あるいは自然の音にひたる。そのとき私たちは、20kHzを超える超高域の音まで感じています。人間の耳には聴こえない帯域の息づきながら、じつは可聴帯域内の音質に大きな影響を与えている20kHz以上の音の成分。CDには録音されず、いわば切り捨てられていた音域の再現をパイオニアが可能にしました。PD-T06に搭載した独自のデジタル技術、レガートリンクコンバージョン。いきいきと躍動する音。ひろびろと澄み切った音場空間。CDプレーヤーは、いま新たな扉を開きます。HI−FIという名の、美しい世界に向かう扉を

 

1993年秋のオーディオアクセサリー誌に 石田善之氏のコメントがありました。
すでに登場している。T−07、T−05の間に位置する新製品だが、内容的にはT−07に近い。(中略)上級機PD-T09にも採用されたレガート・リンク・コンバージョンも採用されている。
 音は大変伸びやかで、ゆったりとしたゆとりを感じさせる。最大の特徴である高域のノビや再現性は、確かに非常に高度な分解性や繊細感を持ち、見事である。オーケストラなどのスケール豊かな棘波それなりに堂々としていて、音の持つ厚み感やワイドレンジ感によるゆとりが うまく引き出されている。反面全体を明瞭かつ分解性良く全域を表現するというよりも、中〜低域にかけてはやや曖昧なくらいにに、音の持つ厚みや音色的な深みが出てくる。明快な音の輪郭感はやや甘い面を覗かせる。しかしながら、これは弱点として捉えるのではなく、音の雰囲気や全体の響きの美しさ柔かさの表現力に大きく寄与しているといえようだ。(中略)ジャズプログラムになると中高〜高域にかけての明瞭感が全体をシャッキリさせ、このプレーヤーの持ち味である明るい雰囲気を良く表現している。デジタル出力は、低域も高域もしっかりとした主張があり、メカ部及びデジタル信号処理部がしっかりしていることをよく感じさせる。

1993年のSOUND TOPS誌の夏号(季刊35号)に藤井誠氏のコメントがありました。
パイオニアの最高級モデルのPT-T09の開発コンセンプトを忠実に受け継がせて低価格化を図ったモデルである。特にレガートリンクコンバージョン方式による高域再生限界の拡大に魅力を感じている人にとっては本機は大きな存在であろう。実際に聴いてみると音場の自然な広さ、あるいは倍音成分の聴こえ方が他の製品と異なっている。整然とした音場を持っていて帯域内にクセがない。音場の定位もキッチリ決まっている。もっとも音楽の空間感はPD-T09ほどのことは無いが、聴感において癖が無い点で本機は高く評価したい。再生音をクセなくスッキリとバランスさせたい人に向くプレーヤーである。

 
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