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パイオニア S-LH5

最終更新日  2006年10月26日


オーディオブームに陰りが見え始めた1996年の発売だったと思います。一台65000円。
当時使用していたkenwoodのLS-G5000を売却して通販で新品を購入。
LS-G5000は凄いスピーカーで良い音には違い無いのですが、淡白な音でなんかもう少し色気のあるゆったりした音が欲しくなりこのスピーカーに買い換えました。

この少し前のパイオニア製スピーカーはカーボングラファイトを高域の振動板に使用した 割とハードで前に前に出るタイプのスピーカーをよく作っていましたが、(例; S−55TWINやS-701 など)このスピーカーで方向転換。2ウエイで高域にはホーンツイーターを採用したある意味異端なモデルを発売しました。パイオニアは以前リボンツイーターを搭載したモデルは発売していましたが、ホーンツイーターを採用したモデルは私の知る限りパイオニアブランドには無く かなり異色なモデルであると思います。

ホーンツイーターというと割りとストレートな音かと思いきや、非常にソフトな音を出します。
音像はスピーカーの後ろに展開するタイプです。
※このページの下のオーディオ評論家のコメントでは、前に張り出すという記載がありますが、私はそうは思いませんでした。

音のコンセプトや構成などの検討、音のまとめをされたのは、パイオニアAV事業部AV第3技術部設計2課主事である(当時) 浜田博幸氏である。また設計したのは同社AV事業部AV第3技術部副主事の長谷徹氏である。1997年2月のステレオ誌で、この製品に関しての対談が掲載されていました。その中で浜田博幸氏と長谷徹氏は以下のように触れられています(青文字部分)

-------------このスピーカーは音が良いことで高く評価されていますが、どのような音を指向されてこのS-LH5を作られてたのか、整理して聞かせてください。
声や楽器の厚み、つまり力があって音場的にそれが妙によそよそしくなくて、リスナー側に少しよって来てくれて、なおかつ、余りきつい音がしなくて、リラックスして聴けるような音を求めましたし、実際そのような音になっていると思います。


バッフルは一段後退して取り付けられている。59800円戦争 79800円戦争の時代には考えられなかったデザインです。


フレームに腐蝕がありますが御勘弁を・・・・口径は22センチ
エッジレスウーハーですが、シールドエッジレスウーハーというエア漏れを改善させたユニットになっており、その為にウーハーのフロントフレームに連続して筒状のフレームがマグネット方向に延びています。リニアパワー方式と呼ばれていました。エッジを取り除いたことによって、振動板のストロークを大きくとれ、駆動力も入力に忠実に出され、エッジからの不要な音の放出も無いという3つのメリットがあります。エッジレスの方法には下の図の1-2と1-3の方法がありますが、S-LH5では図1-2の方法が採用されています。振動板とフレームとの隙間は1ミリで それが隙間の奥行きは15ミリとなっています。この部分はバフレフダクトの一部として動作しています。ダンパーは当然Wダンパーで、ボイスコイルは大きなストロークを確保するためにエッジワイズ巻きのロングボイスコイルとなっています。ウーハーの振動板は TADの1601系の振動板のノウハウをいかしたもので、パルプコーンの表面に高分子フィルムをラミネートして、この上に制振するために塗装がなされ、そののちに熱処理が加えられています。フレームはエッジレス化の関係でアルミダイカスト製でコストの面で苦労がありました。先に書いた15ミリのリング状の部分は、エアの乱流が起こらないように切削がかけられて滑らかに仕上がっています。マグネットは、いろいろなタイプで試作をしたが、一番駆動力を確保できるものを採用しました。

ピュアカーボンとかピュアクロスカーボン・アラミッドハニカムスキン・カーボングラファイト・ポリプロピレン・液晶ポリマー・バイオセルロースなど色々出ましたが、結局は天然パルプなんですかね・・・・。個人的にはカーボンのウーハーが廃れてしまって寂しい限りです。

 

 



ホーン型ツイーター こういう取り付け方も珍しい。ホーンはプラスチック製。ホーンの形状は色々ウンチクがあり、このモデルも AFAST-SZ という理論で設計された。ホーンの共振を抑える設計だそうです。ドライバーは3センチ 3cmコンプレッションドライバー を採用している。振動板は純アルミ製だが表面にアルマイト処理がされている。ボビン一体型でエッジはチタンが採用されている。


ホーン型を使いたいと考えたのは、サウンドStageをリスナーの手前に持ってきてリスナーが音楽の中に少し入り込むような音に包まれたような音作りをしたかった。例えばドーム型ですと、後ろに音が広がる傾向があります。ホーン型の良さというのは、リスナーの背中側の反射とかを含めた2次音源を背面につくって、ある程度音場のなかにリスナーを引き込む。そういう音場を作りたかったからホーン型にしたわけです。

 そうはいっても四角のホーンですと、音がストレートすぎる。monitorスピーカーで音像をピチッと確認するという意味では良いかもしれませんが、耳あたりの良さを求めるには、従来の丸い、上下左右対称の均一な指向性パターンを持ったタイプの方が良いのではないかと、そういう考えで丸型のホーンを使用しています。ホーンのサイズですが、ウーハーとツイーターの指向特性クロスオーバー周波数でほぼ等しくする開口サイズです。つまり軸上特性だけではなく、反射音を含めてウーハーからツイーターまでスムーズに繋がるようにしたい。それでこのサイズにしました。これが2つ目の理由です。勿論帯域を確保した上で、出来るだけ短いホーンに必要もありました。

 このホーンの壁には、特殊な形状をした、笛のような穴がいくつも空けられた音響管のようなものがついていますが、これはアコースティック・フィルター・アシステッド・システム・チューニング(AFAST)と呼ばれる技術です。これは音響管を用いて音質改善を得るもので、このスピーカーの場合ホーンのfoにチューニングした1/4波長管にしてあります。それによっていわゆるホーン臭い音質を解消し、前後方向の音像定位も明確にしています。エクスクルシーブ2251、2252、2402にも搭載されています。面白いことにこのAFASTがついたホーンを自分の口につけて吹いてみると、胸から気管を通じて素直に声が出る感じがします。しかしAFASTの穴を塞ぐと、口の中がモワモワして声が外に出て行かないという感じになります。従来のホーンは、ホーンを通過した音を聴くとハスキーになったり詰まったような感じになったりしませんか?また音像が前後したりしていたんですが、AFASTはわりとこのあたりに固定するというかそういう形なんです。その音響管の穴の位置ですが、笛の穴のような感じで沢山あけてどこが一番良いか検討しました。S-LH5の場合は、声が豊かに聴こえるとか、厚みのある音や音色が欲しかったので、穴の位置は奥側に選びました。

 S-LH5のホーンは特にAFAST-SZホーンと呼ばれていますが、SZの意味は、スプレッドゾーンという意味です。円錐状の領域を離散的に広げた側壁構造を持っています。これによってホーンの中心部と周辺部のインデンシティを調節しています。ホーンのカーブについてですが、普通はホーンの断面積計算は横断面の平面の面積を計算します。振動板に近い位置なら音の伝わり方は平面波に近いのでそれでも良いのですが、ホーンの先のほうに行くにしたがってだんだん球面波に変換されていきます。実際にどのような割合で平面波が球面波に変わっていくのか、その辺を時間軸で注目しました。つまり時間単位で、どこにある点も同じ距離だけ音が伝わるということを仮定し計算しています。このシステムのクロスオーバー周波数は1.2KHZですが、ホーンのfcは普通のホーンの設計だとその半分の600Hzぐらいといわれます。そうするとかなり大きく長くなってしまう。先ほど申し上げましたが、AFAST-SZとの組み合わせにより、理想的なサイズの中で、出来るだけワイドレンジ化されたものが可能になります。本機のfcは事実上750Hzですが、1.2KHZでのクロスオーバーを可能にしています。


ツイーターはコンプレッションドライバーですが、ドライバーを新しく製作するといっては変ですが、基本に忠実に設計しました。振動板は軽くて、出来るだけ磁束は強いこと。出来るだけ寄生狭心は除くこと。そういう基本的なことはしっかりと抑えました。エッジワイズボイスコイル線やアルミ製の振動板を採用することは、そういう目的から当初から考えていました。一番母体になるモデルは長谷が設計したのですが、余り評価がよくなく、完成度を高めるために中身はかなり改良が加えられた。バックカバーはアルミダイカストを採用しました。中身の音圧は140-150dBになるので、普通のプラスチック系の軽いものですと共振したり音が外に漏れるなど問題がありました。このことはTADで一緒に仕事をしていたバード・ロカンシーさんも言われていました。

 振動板は純アルミニウムを使用しています。アルミ系の素直な高音の伸び感とか、ソフトな耳あたりということで・・・。ただダイアフラム・ボビン一体構造なので絶縁のためアルマイト処理をしています。エッジにはチタンを使いました。これはチタンのほうがバネ定数に優れていることや音質的にも優れているというものだったからです。
---------振動板にチタンが使われることはありますが、この場合は振動板はアルミで、エッジがチタンなんですね。
チタンは使いこなしが難しい部分も多少あって、独特の輝きの部分はあるんですが、どちらかというとハイに寄ってしまうんですよね。一方このスピーカーでは中音域をすごく重視したかったので純アルミを振動板に用いました。確かに上が延びてこないという面はアルミにはありますが、その部分をエッジのチタンで補っていという・・・。そういうところが苦労しました。

あと振動板アッセーは非常に精度が必要な部品です。この精度もTAD系のドライバーのノウハウを使いました。精度を出すことがドライバー性能を大きく左右する要因ですから、そのへんでもかなり苦労しました。磁気回路についてですが、磁束密度をできるだけ大きくしたいということもあって、フェライトの磁気回路としては、かなりおごったものになっています。これで約1万6000ガウスぐらいでていると思います。特性を見ると本当に良いドライバーだと思います。すごく素直なドライバーです。


デカい2本のバフレフポート 奥は写真のように部分的にフェルトが貼ってある。
このポートが効いて低音は量感たっぷり。
しかし40HZ以下は壮大な空振りで全く音が出ません。

 


アットネーター付き 3ポジションのみ。
スピーカー端子は大型で斜め下向きに取り付けられており、最高に使いやすい。

 


裏板は取り外せる
重量は 19.2kg
幅370×高さ575×奥行328mm

キャビネットの色はペアウッド、いわゆる梨の木です。ヨーロッパで流行しているそうですが、桜系に近いような木目の大人しい、そういう柄ですね。前面の周辺に額縁がついていますが、グリルフレームのテーパーと一緒にあわせて、ある程度ラウンドを取ることで反射を少なくしています。より生活に溶け込む感じのデザインに持っていきました。実はバッフル板・裏板・側板+天板+底板とで、3種類の異なる木材を使用しています。強度を変えるとか表面処理の問題もありますが、特に裏板がちょっと強めです。それと同時に適材適所の補強を行っています。かなり細かくやりましたので、補強にはちょっと時間がかかりました。

専用スピーカー台とネットワーク構成
ネットワークとは自作スピーカー並みに、空芯コイルを使用して固定も基盤に直接接着している。
ウーハーは単純なLCによる-12dBのハイカット
ツイーターは-12dBのローカットとLCを並列に接続した補正回路が入っている。

ウーハー用のネットワークは右側の側板、ツイーターのネットワークは裏板に取り付けてあります。中音域を本当にヒューマンに暖かく聴きたいと言う事で、チョークコイルは空芯タイプを使用しています。コイルの形状については自分で手巻きしてコイルを作成してベストなものを採用しました。それからコンデンサーについても、狙いの音を求めて適材適所といいますか、3種類のコンデンサーを使用しています。このスピーカーはモニタースピーカーではなくて、楽しめればよいという風に考えました。今回ウーハーは12dB、ツイーターは24dBクロスと 双方とも12dBというのを比較しました。 24/12dBの方が音はピシッと決まるのですが、楽しさという面では12/12dBの方が良かったということで、そちらを選択しました。アッテネーターはノーマル・増強・減少の3positionを設けました。昔のスピーカーにはどれにも調節式のアッテネーターがついていたのですが、最近少なくなってしまいました。使いやすさという点を考えてノーマルに対して+-1dBの中で可変できるようステップ切り替えですが、アッテネーターをつけました。メイン回路には切り替え接点が入らない回路構成にして使いやすさと音質の両方に対応しています。

 


ウーハー用のネットワーク
コイル1 コンデンサー1の組み合わせで側板へ固定されている。
端子への接続方法が気にくわない・・・。


ツイーター用のネットワーク
裏板に取り付けられている。 抵抗が沢山配置されているが、これは3ポジション切り替え式のためである。一度に全部通電するわけではない。空芯コイル2、電解コンデンサー1、フィルムコンデンサー1が使用されている。電解コンデンサーには銅箔が巻いてあり容量や銘柄などは不明。これは良いアイデアだ。自作を含めてネットワーク素子に銅箔を巻くというのは見た事が無い。アンプなどではよくある手技ではあるが、ネットワーク素子でも有効である可能性が高い。


スピーカー端子と切り替え式アットネーター
端子の裏側には、申し訳程度に布テープが貼り付けられていた。(新品購入なので、前オーナーの加工ではない)

 


吸音材は、ニードルフェルトをバッフルを除く5面に貼り付けてある。


補強はウーハーとツイーターの間に斜めに1本斜めに入っている。ダクトは紙パイプで断端は斜めカットされて、共振防止にフェルトが2箇所に取り付けられている。ユニットは木ねじで取り付けられており、鬼眼ナットなどは使用されていない。


補強材の高さは25ミリ


キャビネットは6面とも18ミリ厚、天板と裏板にはユニットの抜き穴が貼り付けられている。


ツイーター
バックカバーは、開発者の談話にもあるように、ダイカスト製で強力。ネジも銅メッキがなされている。ホーンにもニードルフェルトをゆるく巻きつけてある。



ホーンの上に突出した部分が、AFAST


ウーハー
エッジレスなので Wダンパーである。
キャンセルマグネット付き
ツイーターはキャンセルマグネット付ではないので、AV対応というより磁束強化が目的か?


端子は差し込み式で引っ張ると抜けやすい。
すべてハンダで固定しておいた。

音は甘い音で ハードでダイナミックな音ではありません。スピーカーと対峙して聴き入るというタイプではなく 仕事をしながら音楽を聴くタイプのスピーカーです。

私の音のコメントはこちらを参照

1996年冬号のオーディオアクセサリー(83)誌に、長岡鉄男氏のコメントがありました。
丸型ストレートホーンが珍しい。低音が豊かで、独特な音質傾向。リニアパワーウーハーも特徴だが、もう一つ丸型のストレートホーンという珍しい方式が採用になっている。昔はツイーターといえばホーン型が基本であり、丸型ホーンは最もポピュラーだった。それが選手交代でドーム型全盛となり、ホーン型はごく一部のモニターや業務用にしか見られなくなった。本機は久しぶりのホーンの登場。それも昔のシステムには採用されなかった大口径丸型ショートホーンであり、さらにホーン内壁を完全な曲面(エクスポネンシャル)ではなく、コニカルホーンの連続(カスケード)のような形に仕上げることで、中心部と周辺部の音速の差を補正。パイオニア独自の音響管を設けるなど、位相差、時間差を最小限に抑えて、クリアでヌケの良い音を実現している。ホーンが大型なのでクロスを1.2kHzと低めに取れるのもメリット。リニアパワーのウーハーはST05とは設計が異なる。完全エッジレスで、エッジとフレームの空間は、ウレタンで塞ぐことはしていない。隙間から向こうが見える設計。ダブルダンパーは同じだが、ボイスコイル、磁気回路は通常タイプ。フォステクスでかつて発売されていたエッジレスウーハーと似た構造である。キャビネットは実測19キロ。バッフルは18ミリ厚、板厚は程ほどだが、効果的な補強で強度は十分取れている。ダクトのチューニングは50Hz。ウーハーとエッジの隙間もダクトとして働いてしまうので、これ以上低くチューニングすることは出来ない。ネットワークは空芯コイル、大型電解コンデンサー、フィルムコンデンサー(UΣ)とデラックス。線材も凝っている。
 音は独特。やはり低音が豊かで、オルガンがスケール雄大、花火やウッドベースは甘口になるが量感たっぷりでよい。オーケストラもゆったり鳴る。ヴァイオリンは柔らかく表現され綺麗だ。声も綺麗だがやや大味。パイオニアトーンはここにも生きている。超低域は急降下なのでコントラバス・マリンバなどはイマイチ。

1997年6月のステレオ誌に石田氏のコメントがありました。
このクラスには珍しく中高域にコンプレッションドライバー+ホーンという構成で独特の風貌だが、音は落ち着き感があり、かつホーンらしく前へ前へと繰り出してくる。中低域は程よく厚く、勢いとのバランスが良い。

1997年3月のステレオ誌 石田善之氏のコメント
ホーンを用いた2ウエイで、これまで国内のメーカーではあまりこういうコンセプトの製品はない。コンプレッション・ドライバー+ホーンのよさを大いにアピールしようというもので、形にしても構成にしても積極的で、音も、見た目の印象もあまりなじみが無い。ウーハーとホーンが同じ口径であるので、意外な印象なのだが、出てくる音はぐっとオーソドックスで癖が無い。サイズに見合ったスケール感があるし、中低音を程よく厚くして小型スピーカーでは味わうことが出来ないようなゆとりを感じさせる仕上がりである。2ウエイのよさというか、クロスオーバーがひとつ、というメリットがあって、無理の無い良さを感じさせる。(中略)ホーンならではなの良さとして、音像感がきっちりとしていること、音が前にせり出してくることなど、声楽曲でも独奏バイオリン曲でも同様。音場的なバランスはなかなか見事である。また音に屈託が無く、チェロは浪々と伸びやかで快適。ジャズ系のソースは前へ積極的にせり出してきて効果的。旋律樂器がスポッと出てくる。低域はいくらか重いが躍動感を邪魔するものではない。

同 入江順一郎氏のコメント
ピアノはくっきりした感じはあるものの、ややタイトな表現になっており、女性ボーカルはやや鼻にかかった声になっている。別な魅力はありが、表現のパターンとしては似た感じになる。ブラスは高域の低下によるものと思うが、エッジはあまりはっきりするほうではなく、少し膨らんだ感じになっている。オーケストラでも高域の低下からか、余り細かい音は感じず、音場感も左右優先の感じになっている。低域は少し重さがあり、ジャズベースの頭の出方から、もう少し歯切れの良さがあっても良いと思う。このスピーカーも個性の強いものであるが、低域と高域を増強する初心者には向いている。なお圧とネーターで高域は調節できるが、少し質感が変化する。

同 金子英男氏のコメント
新規構造のユニット構成でまとめた音色としては、一般的な感触とは確かに違う方向の音色と鳴り方の違いを感じさせる。音色のまとまりとしては全体に再生帯域としてはそれほど広くは感じられないもので、中間の帯域に主体を置いて、その帯域の中での限られた鳴り方をする。高域と低域のバランスは取れているものの、全体としては割合活発な印象を受ける。ある意味での鳴り方は、開放的なところはあるにしても、メリハリを強めた開放感で、細部までは気を遣われていないという表情を感じる。あるメッシュの大きさから先の部分では整理されてしまい、雰囲気的な感触はなかなか得られないところでもある。特に再生帯域もさることながら、音の出方の感触の違いが全域に感じられて、1つの自然なまとまりのある再生感覚とは違う音楽の訴え方になっている。これだけ新しい構成を具体化する時には、製品に対する練り方と完成度をあげて、もう一つ踏み込んで欲しい感じが残る。

他にも福田雅光氏や神崎一雄氏のコメントも同雑誌には掲載されていますが、総じてコメントの内容は音の傾向の表現はバラバラです。

MJ 1997年4月号に特集が組んでありました。
そこで小林貢氏は以下のようにコメントされています。
音離れの良さを感じさせる爽快なサウンドが聴ける、音量を僅かに上げただけでウーハーは敏感に反応し低音楽器の音像が鮮明に浮かび上がり、ビートの切れも気持ちよい。これは低域特性を高めるために、無理やりfoを下げた低能率のウーハーでは絶対に得られないものだ。ヴォーカルなども伸び伸びとよく歌うという印象だが、適切にチューンされているためか、低価格なホーン型SPということで想像されるような、荒れた響きや強調感はなく、ナチュラルな質感が得られている。低域に関してはサイズを考えるともう少し伸びて重量感が欲しいと思うが、これは先に触れたように反応のよさを優先した結果なのであろう。むしろ無理に伸ばして鈍重な低音になるなら本機のような低音のほうが音楽が生き生きとしてくるので好ましい。いずれにしても高いCPを持った製品で、音楽を楽しく聴くことが出来るスピーカーと言えよう。

また山口孝氏のコメントも同冊子にはあります。
音からは製作者の意向も音楽の存在感も演奏者の気迫も殆ど聴こえてこない。しかし必要十分の音が空間に拡散し、どのソフトを使用しても過不足なく鳴る。ことさら存在感を主張するよりも、環境に順応するようなカタチやイロと同じような機能に徹している。だから純オーディオというより映画を含む楽しい生活空間の中でのスピーカーとしてのコンセプトが見える。

オーディオアクセサリー 1996年冬号(83)でも、石田善之氏のコメントがありました。
ベテランファンも納得の実在感とヌケの良さ。中型ブックシェルフに属するが、再生領域は特に低域が期待される。流行のコンパクト2ウエイと比べると、はるかに余裕がある。エッジレスによる反応の良さは、音全体に重みがなく、躍動的で空間の中に伸びやかに音が広がる。ウーハーのみならず、1.2kHzのクロスで中高域を受け持つホーンの反応性の良さも大きく関わっている。ダイヤフラムには表面硬化処理をした純アルミが用いられているが、構造的にはフェイシングプラグを持つTADで培われたドライバーだけに、高域までの伸びやかさも期待できる。スペック上の能率は90dBであるが、ホーン領域は遥かに高い能率で構成され、独特のヌケの良さや音像の実在感がある。能率が高いため3にアッテネーター搭載。(中略)快活、伸びやかで元気の良いサウンドだが、はしゃぎすぎることもなく、ベテランファンにも納得のいくもので、木目のキャビネットも美しい。

 ホーン型というとクラシックファンには倦厭されがちであるが、ピアノ伴奏のヴァイオリンなど、実在性、存在感がくっきりとスピーカーの前に浮かび上がり、微妙な弓の動き、細やかなニュアンスが伝わっている。音場的にもバックのピアノとヴァイオリンの距離感は程よい。奥行きよりも前方への張り出しがいくらか強めになるようだが、サウンドを積極的に展開することにもなる。ジャスボーカルは期待通りで、2本のスピーカーの間にピシッと定位し、音像そのものもさして大型化しない。このあたりサイズ的にもメリットを感じる。ドーム型振動板にはない魅力だ。声は伸びやかに空間に広がっていく。オーケストラも明快で、一音一音がキチンとしていてアクセントも明瞭。しかも中域から低域にかけての弦楽器の厚みなどもクリアで、響き感も良好。

余談ですが 1998年に S-LH5a 68000円というのが発売になっています。S-LH5をベースに改良を加えたモデルですが、詳細は不明です。

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