オーディオ解体新書>パイオニア S-LH5
パイオニア S-LH5最終更新日 2006年10月26日 |
この少し前のパイオニア製スピーカーはカーボングラファイトを高域の振動板に使用した 割とハードで前に前に出るタイプのスピーカーをよく作っていましたが、(例; S−55TWINやS-701 など)このスピーカーで方向転換。2ウエイで高域にはホーンツイーターを採用したある意味異端なモデルを発売しました。パイオニアは以前リボンツイーターを搭載したモデルは発売していましたが、ホーンツイーターを採用したモデルは私の知る限りパイオニアブランドには無く かなり異色なモデルであると思います。 ホーンツイーターというと割りとストレートな音かと思いきや、非常にソフトな音を出します。 音のコンセプトや構成などの検討、音のまとめをされたのは、パイオニアAV事業部AV第3技術部設計2課主事である(当時) 浜田博幸氏である。また設計したのは同社AV事業部AV第3技術部副主事の長谷徹氏である。1997年2月のステレオ誌で、この製品に関しての対談が掲載されていました。その中で浜田博幸氏と長谷徹氏は以下のように触れられています(青文字部分) -------------このスピーカーは音が良いことで高く評価されていますが、どのような音を指向されてこのS-LH5を作られてたのか、整理して聞かせてください。
ピュアカーボンとかピュアクロスカーボン・アラミッドハニカムスキン・カーボングラファイト・ポリプロピレン・液晶ポリマー・バイオセルロースなど色々出ましたが、結局は天然パルプなんですかね・・・・。個人的にはカーボンのウーハーが廃れてしまって寂しい限りです。
そうはいっても四角のホーンですと、音がストレートすぎる。monitorスピーカーで音像をピチッと確認するという意味では良いかもしれませんが、耳あたりの良さを求めるには、従来の丸い、上下左右対称の均一な指向性パターンを持ったタイプの方が良いのではないかと、そういう考えで丸型のホーンを使用しています。ホーンのサイズですが、ウーハーとツイーターの指向特性クロスオーバー周波数でほぼ等しくする開口サイズです。つまり軸上特性だけではなく、反射音を含めてウーハーからツイーターまでスムーズに繋がるようにしたい。それでこのサイズにしました。これが2つ目の理由です。勿論帯域を確保した上で、出来るだけ短いホーンに必要もありました。 このホーンの壁には、特殊な形状をした、笛のような穴がいくつも空けられた音響管のようなものがついていますが、これはアコースティック・フィルター・アシステッド・システム・チューニング(AFAST)と呼ばれる技術です。これは音響管を用いて音質改善を得るもので、このスピーカーの場合ホーンのfoにチューニングした1/4波長管にしてあります。それによっていわゆるホーン臭い音質を解消し、前後方向の音像定位も明確にしています。エクスクルシーブ2251、2252、2402にも搭載されています。面白いことにこのAFASTがついたホーンを自分の口につけて吹いてみると、胸から気管を通じて素直に声が出る感じがします。しかしAFASTの穴を塞ぐと、口の中がモワモワして声が外に出て行かないという感じになります。従来のホーンは、ホーンを通過した音を聴くとハスキーになったり詰まったような感じになったりしませんか?また音像が前後したりしていたんですが、AFASTはわりとこのあたりに固定するというかそういう形なんです。その音響管の穴の位置ですが、笛の穴のような感じで沢山あけてどこが一番良いか検討しました。S-LH5の場合は、声が豊かに聴こえるとか、厚みのある音や音色が欲しかったので、穴の位置は奥側に選びました。 S-LH5のホーンは特にAFAST-SZホーンと呼ばれていますが、SZの意味は、スプレッドゾーンという意味です。円錐状の領域を離散的に広げた側壁構造を持っています。これによってホーンの中心部と周辺部のインデンシティを調節しています。ホーンのカーブについてですが、普通はホーンの断面積計算は横断面の平面の面積を計算します。振動板に近い位置なら音の伝わり方は平面波に近いのでそれでも良いのですが、ホーンの先のほうに行くにしたがってだんだん球面波に変換されていきます。実際にどのような割合で平面波が球面波に変わっていくのか、その辺を時間軸で注目しました。つまり時間単位で、どこにある点も同じ距離だけ音が伝わるということを仮定し計算しています。このシステムのクロスオーバー周波数は1.2KHZですが、ホーンのfcは普通のホーンの設計だとその半分の600Hzぐらいといわれます。そうするとかなり大きく長くなってしまう。先ほど申し上げましたが、AFAST-SZとの組み合わせにより、理想的なサイズの中で、出来るだけワイドレンジ化されたものが可能になります。本機のfcは事実上750Hzですが、1.2KHZでのクロスオーバーを可能にしています。
振動板は純アルミニウムを使用しています。アルミ系の素直な高音の伸び感とか、ソフトな耳あたりということで・・・。ただダイアフラム・ボビン一体構造なので絶縁のためアルマイト処理をしています。エッジにはチタンを使いました。これはチタンのほうがバネ定数に優れていることや音質的にも優れているというものだったからです。 あと振動板アッセーは非常に精度が必要な部品です。この精度もTAD系のドライバーのノウハウを使いました。精度を出すことがドライバー性能を大きく左右する要因ですから、そのへんでもかなり苦労しました。磁気回路についてですが、磁束密度をできるだけ大きくしたいということもあって、フェライトの磁気回路としては、かなりおごったものになっています。これで約1万6000ガウスぐらいでていると思います。特性を見ると本当に良いドライバーだと思います。すごく素直なドライバーです。
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キャビネットの色はペアウッド、いわゆる梨の木です。ヨーロッパで流行しているそうですが、桜系に近いような木目の大人しい、そういう柄ですね。前面の周辺に額縁がついていますが、グリルフレームのテーパーと一緒にあわせて、ある程度ラウンドを取ることで反射を少なくしています。より生活に溶け込む感じのデザインに持っていきました。実はバッフル板・裏板・側板+天板+底板とで、3種類の異なる木材を使用しています。強度を変えるとか表面処理の問題もありますが、特に裏板がちょっと強めです。それと同時に適材適所の補強を行っています。かなり細かくやりましたので、補強にはちょっと時間がかかりました。 |
専用スピーカー台とネットワーク構成 ウーハー用のネットワークは右側の側板、ツイーターのネットワークは裏板に取り付けてあります。中音域を本当にヒューマンに暖かく聴きたいと言う事で、チョークコイルは空芯タイプを使用しています。コイルの形状については自分で手巻きしてコイルを作成してベストなものを採用しました。それからコンデンサーについても、狙いの音を求めて適材適所といいますか、3種類のコンデンサーを使用しています。このスピーカーはモニタースピーカーではなくて、楽しめればよいという風に考えました。今回ウーハーは12dB、ツイーターは24dBクロスと 双方とも12dBというのを比較しました。 24/12dBの方が音はピシッと決まるのですが、楽しさという面では12/12dBの方が良かったということで、そちらを選択しました。アッテネーターはノーマル・増強・減少の3positionを設けました。昔のスピーカーにはどれにも調節式のアッテネーターがついていたのですが、最近少なくなってしまいました。使いやすさという点を考えてノーマルに対して+-1dBの中で可変できるようステップ切り替えですが、アッテネーターをつけました。メイン回路には切り替え接点が入らない回路構成にして使いやすさと音質の両方に対応しています。
音は甘い音で ハードでダイナミックな音ではありません。スピーカーと対峙して聴き入るというタイプではなく 仕事をしながら音楽を聴くタイプのスピーカーです。 |
1996年冬号のオーディオアクセサリー(83)誌に、長岡鉄男氏のコメントがありました。 1997年6月のステレオ誌に石田氏のコメントがありました。 1997年3月のステレオ誌 石田善之氏のコメント 同 入江順一郎氏のコメント 同 金子英男氏のコメント 他にも福田雅光氏や神崎一雄氏のコメントも同雑誌には掲載されていますが、総じてコメントの内容は音の傾向の表現はバラバラです。 MJ 1997年4月号に特集が組んでありました。 また山口孝氏のコメントも同冊子にはあります。 オーディオアクセサリー 1996年冬号(83)でも、石田善之氏のコメントがありました。 |
余談ですが 1998年に S-LH5a 68000円というのが発売になっています。S-LH5をベースに改良を加えたモデルですが、詳細は不明です。 |
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