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SS-A5

2006年02月06日 更新

W31.5XH61.5XD31.5cm
重量13kg

ウーハー20センチコーン型
ツイーター2.5cmドーム型
1989年発売
一台 49500円(税別)

 

このSS-A5の直前までSONYはSS-G333ESという高剛性3ウエイスピーカーを発売していたが、突如としてこのモデルが発売された。スピーカーの性格や音質へのアプローチとしては、まるで違うスピーカーで、当時 私も驚いた記憶がある。古いデザインですが、TA-F555ESG CDP-X77ESなどが発売されていた時期と同じ頃の製品です。他社の製品としてはLS-11ES/PD-5000/S-1000TWIN/A-10X/DS-77Z/D-77XGなどと同じ世代です。

1990年6月のステレオ誌にて、スピーカー5万円未満の部門で
ベスト・バイ・コンポ・トップモデルに選定されています。
ちなみに2位はビクターのSX-500U、3位はDIATONEのDS-66Zでした。

La Voce

作らない・叫ばない・装わない ただただ素直にあるがままを奏でる。弾く。歌う。この世の中に、そんなスピーカーがひとつくらいあってもいいと思いました。ソニーの<La Voce>。声という名前のスピーカー。どうしてもつくりたくてつくりました。私たちは何よりも、心地よい音を目指しました。自然で、うるおいがあって、長く聴いても疲れない音。だからまずリスニングポジションに座りました。何が心地よく、何が自然か、を自分の耳で確かめました。それが設計の始まりでした。素材は自然のものを使い、フォルムも自然のカタチに近づけていったら、優しいスピーカーになりました。ボーカルの艶、ストリングのハーモニー。アコースティック楽器の生々しさ、La Voce の表現力は、目を閉じて耳を澄ましたとき、心の中まで響きます。音の輝きは、人も輝き。人の匂いがする音こそ、心地よい音なのだと気づいた作り手の、正直な気持ちが鳴らす音です。

音の輝きは、人の輝きだと知った。
音楽のために。ソニーのスピーカー La Voce

(以上 当時の雑誌広告より引用)

ONKYO D-77によって開始された59800のスピーカー戦争。KENWOODはLS-990Aを投入してONKYO VS KENWOODに。そこにDENONとYAMAHA PIONNER DIATONEが参戦。果てはSANSUIまで参戦する有様でした。SONYはAPM平面スピーカーを直前まで発売していた関係でこの59800戦争への参戦が遅れました。先に触れたSS-G333ESがSONYの59800戦争への投入機なのですが、時すでに遅くシェアは確保できませんでした。アンプではTA-F333ESXでシュアを他社から奪えたのですが、スピーカーではうまくいかなかったのです。そういった事情もあり 他社とは一線を隔てる製品を求められ、こういったスピーカーが出てきたのだと思います。同様にパイオニアも大型ブックシェルフスピーカーから撤退し、バーチカルツインという武器を手にして新たな市場の開拓を目指しました。かくして59800円のスピーカーは その後 ONKYO KENWOOD YAMAHA DENON DIATONEの5社で争われました。

 


バッフルは15ミリ厚、他の5面も同じく15ミリだろう。パーチボードではなく合板を使用している。天然木材のツキ板仕上げ。ツイーター周りは一段バッフル面が下げられているが、リニアフェーズにはなっていないと思う。基本的に補強材は無いに等しい製品。板厚の薄いので、アンプのボリューム9時くらいで側板や天板は良く共振している。キャビネットそのものが、振動板の延長として音を出す設計であろう。強度不足のように思われるかもしれないが、すべて試聴によって検討されて決定したものである。

ごらんのようにバッフル面は全部フェルトで覆われている。おそらく私の知る限り最もルックスの悪いスピーカーだろう。スマートな製品の多いSONYがこのような極端なスピーカーを発売したのは意外である。勿論サランネットは本来取り外すスピーカーではない。


スピーカー裏側にもサランネットは外さないように注意書きがある。
スピーカー端子は大きなもので、かなり大きなコードも固定できる。



サランネットはマジックテープでかなり強固に固定されている。サランネットの枠には柔らかいフェルトが取り付けられて防振されている。フロント部分には<sony>のマークがあるが、これは革張りになっている。



バフレフポートは塩ビのパイプが使用されており、内面は1/2周のみ吸音材が貼られている。


ツイーター・ウーハー共にユニットのフレームにもフェルトが貼られている。SONYからはこのスピーカーに関して 素材や技術的なことについて一切発表しない方針となっている。黙って音だけを聴いて欲しい・・・・ということでした。

キャビネット内部は5面すべてに厚さ1センチくらいの白色の吸音材は張られているが、裏板部分にはさらに茶色の吸音材が張られている。


ツイーターは取り付けボルトにも防振材が貼られているので取り外さなかった。ウーハー側から手を入れて触った感じではキャンセルマグネット付きの普通の磁気回路のようだ。アルニコなどではなさそう。ボルトは爪付きナットで固定。トッププレートのボルトにも青いゴム状のものが貼られている。ソレルボンか?

ツイーター周りはバッフルは部分的ではあるが2枚重ねになっている。ソニー・味の素・工業技術院繊維高分子材料研究所の3社が共同開発したバイオセルロースを使用したセミハード型振動板である。ドーム型にプレス加工するのではなく、初めからドーム型の鋳型の中で繊維を成長させると伺った。バイオセルロースはアセトバクターと呼ばれるバクテリアが作り出すセルロースである。バイオセルロースはFOSTEXの単体販売ユニットの一部にも使用されているが、SONYが使用したものと同一からは不明。SONYではヘッドホンの振動板としてもこのバイオセルロースを使用している。特許もとられている。

バイオセルロースの分離方法
  バイオポリマー・リサーチ:特許2766182号

PQQ非生成株を用いるバクテリアセルロースの製造方法
  バイオポリマー・リサーチ:特許2767551号

バイオセルロース(バクテリアセルロース)は植物が作るセルロースより純度が高く、非常に微細な構造(植物のセルロース繊維の1/100)であるため、様々な特長(例えば、ヤング率がアルミニウムと同じくらい)を持っているので、新素材としても期待されている素材です。培養はココナッツ果汁などで行われ、数日間でセルロースを取り出す事が出来るそうです。アゾトバクターは蛋白分解酵素を浸透させて、溶かしてしまうそうです。バイオセルロースは分解性プラスチックとしても期待されましたが価格がネックとなり普及していません。

振動板は、クリーム色に見えるが、振動板自体はほぼ透明で、中の吸音材が透けて見えているだけである。素材の印象として一番近いのは、フィルム状のポリプロピレンといった感じ。ツイーターのネットは銅製のようである。


ウーハーはパルプを使用したコーン型。センターキャップ付近は何か塗布されておりテカテカ光っている。ウーハーのエッジには青いゴムのようなもの(ソセルボン?)が貼り付けてある。これも共振の分散とか固有振動の制振が目的だろうが、オーディオ初心者が100円ショップの素材でやたら色々手を加えたようで、ルックスには甚だ問題がある。


周辺部分のみコルゲーションが入っている。ツイーターを同じく爪付きナットで固定。銅製のワッシャーを挟んで固定されている。磁気回路は通常のフェライト磁石だが、磁気回路ごと金属製のカップに押し込んで、その金属カップの周囲にまたもやフェルトを巻いて防振している。もちろん金属カップと磁気回路の間にも防振材が充填してある。


ユニットのフレームはダイカスト。システム全体としてはAV対応なので、おそらく金属カップの中にキャンセルバグネットが入っているのだろう。フロントのフレーム裏にはコルクが張っていある。


内部の配線は通常の家庭用のコードのようなもの。いまどきアイロンでももう少し良いコードを使用していると思うが・・・・。ウーハーが赤色、ツイーターが青色と色分けしたコードが使用されている。

 


ネットワークは底面近くに設置してあるが、底面とは接していない。左右の側板をつなげる形で板が渡してあり、その板の上にウーハー用・ツイーター用のネットワーク回路がまとめて設置してある。その板と底板の空間にも吸音材が入れてある。

 ツイーター用がコイル1 コンデンサー沢山 抵抗3という内容。ウーハー用はコイル2 コンデンサー沢山 抵抗2である。コンデンサー沢山というのは、容量の小さなケース入りフィルムコンデンサーを多数並列で接続して目的とする容量を確保しているためである。-12dBのネットワークだろうが、インピーダンスの補正とかもやっていそう。コンデンサーの種類は不明だが、おそらく高品位なものであろう。ネットワーク回路を分散配置にしないのは、取り付ける場所が無いからであろう。側板などは共振させる構造になっているので、そんな所にネットワーク素子を配置すると余計に音が悪くなる可能性もある。


 写真左上に見えるのはバフレフポートである。

専用のスタンドは、WS-A5で4本の脚で底面を支える構造。底面は四隅で支えられ、底面の響きを生かす構造になっているが、このスタンドには否定的な意見を持つ方も居られた。

1993年に改良機であるSS-A5Sが発売されている。価格は1台6万円と約1万円アップしている。基本的なことは変わりないが、側板の前側のツイーター部分がゆるく波状にカットされた。ウーハーの磁気回路も強化され、振動板やネットワーク、ダクトなど細部にわたる再調節が行われ、より自然な音になっている。

 

私の音のレポートは、こちらを参照

 

三井 啓氏は同冊子で以下のようにコメントされています。
量感の豊かな低音が聞き手を包み込むようなこころよさは、音楽性の豊かな、格調の高い音質でファンの多いイギリスのスピーカーを髣髴させ、高音域が滑らかですっきりしているため長時間聴いても疲れない

1990年11月のステレオ誌にて藤岡 誠氏が以下のようにコメントされています。
5万円以下の2ウエイスピーカーとしては大型。しかも天然木のツキ板仕上げ。全体にヨーロッパ調の外観と音調を持っている。ソニーは本機を中核として上下にラインアップを最近になって設けたが、本機がトータルとして一番優れていると思う。前面グリルは取れない。ふっくらとした音調は低域方向に張り出しがあり意外な重さ表現のためだろう。高域も繊細感があり、バランス感覚に優れている。

1990年6月のステレオ誌では上杉佳朗氏は以下のようなコメントを残している。
ロープライスながらヨーロッパの中級〜高級スピーカーに似た音楽的表現の豊かさが素晴らしい。小型スピーカーシステムでの問題点は低音再生にある。したがって低音と高音がうまくバランスし、長時間聴き込んでも疲れないこと、音楽が雰囲気良くなってくれることに注目して選んだ。ホールの雰囲気や楽器の質感を大切にした音作りで、ヨーロッパ特にイギリスのスピーカーと共通する音作りといってよい。

同誌では貝山知弘氏も以下のようなコメントを残している。
5万円以下のスピーカーは相変わらず激戦区であるが、ここは音質改善が著しく進んだSONY SS-A5を選択した。元々音楽再生を重視したコンセプトが気に入っている商品だったが、前回の選考時には、まだ音質の練り上げが極僅か足りないという印象だった。今回試聴したSS-A5はそういった懸念を一掃する出来栄えで、文字通り音楽に浸りこめるサウンドとなっている。


SS-A3

なお1990年に16センチコーンユニットを採用した下位機種SS-A3が発売されている。

16センチウーハー
2.2センチ ドーム型ツイーター
64000円(ペア)
出力レベル86dB
サイズ 220W×395H×250D
重量 6.5キロ


1990年11月のステレオ誌で藤岡誠氏と福田雅光氏がSS-A3について以下のようにコメントしている。
相当低域を頑張っている印象です。頑張りすぎという感じもあります。前後感の表現など、なかなか巧みな部分もありますが、実際、中域の密度が不足気味でボーカルなどは引っ込みがちに鳴る。しかし低域に相当な頑張りを見せているので、寸法以上のスケール感がある。音場の流れが大変良く澄み切っているし、すごく軽やかに流れ出て大変美しい。そして細部の表現も豊かです。音質的にも濁りが極めて少ないし、表情が綺麗で全体としては極めて透明なニュートラル系、上品、丁寧な再現性を持ったスピーカーであるといえる。パイオニアのS-11TXのような油絵のような表現とはまた逆のタイプの雰囲気が基調になっています。中域は2ウエイによる中だるみというものではなくて密度巻の不足だと思うが、これは持ち味といっても良い。スリムな感じで、もう少し中域が出ても良いような感じはある。決してフラット指向ではなく、この限られたコストとサイズでどこまで音楽の雰囲気を出せるかというその取り組みについては、高い評価が出来る。

また長岡鉄男氏は同雑誌で以下のようにコメントされている。
4面チーク材突き板仕上げ、前後バッフルは米松合板、フロントバッフルは段差構造で全面フェルト張り、内部の吸音材処理も複雑、見えないところに手間隙をかけた音楽性重視のスピーカー。強力なユニットによる2ウエイで、F特性は20KHZに鋭いピークを持つが、それを除くと40HZから30KHZまでフラットで、低音の質が良く、しまりもあり、中高域は美しく、きめが細やかで、気品があり、雰囲気が良い。KENWOODのLS-11と比較すると地味だが、本機も高級感抜群である。


SS-A7

また上級機としてSS-A7という製品も発売されている。198000円で3ウエイ構成でツイーターは2つ装着されている。つまり3ウエイであるがユニットは4つある製品。SS-A3とSS-A7についても、ツイーター用振動板にはバイオセルロースが使用されている。

3ウエイバフレフ型
出力レベル86dB
サイズ 315W×710H×332D
重量 24キロ
198000円

同じ1990年11月のステレオ誌に 藤岡誠氏と福田雅光氏のコメントがあるが、試作機による評価のようなので、ここでは掲載しない。(当サイトは試作機の評価は掲載しません)

同雑誌に上杉佳朗氏のコメントがあった。
切れ込みの良い明快なサウンドというよりも、コンサートホールの特等席で楽しんでいるような、響きの豊かな再生音が魅力のスピーカー。そういう意味ではヨーロッパの高級スピーカーに共通する面が多い。低域は量感が豊かで、中域は緻密。そして高域は繊細というのが各パートの印象だ。ジャズとかクラシックという具合にソースを選ばないのも特徴。

 

オーディオ解体新書>SONY SS-A5