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SONY TA-F555ESL

最終更新日  2006年10月17日

TA-F555ESLはGシャーシーを採用したSONYのアンプシリーズの5作目の製品です。評判が今ひとつだったTA-F555ESGの外観デザインを再び一新し、終段にMOS-FETを採用したモデルです。なお初段・ドライバー段は従来どおりのバイポーラートランジスタです。

Gシャーシーとはジブラルタルシャシーの略で、ネーミングはジブラルタル海峡の硬い岩壁から取られました。モノはグラスファイバーなどで強化したレンジコンクリートのようなものです。

1990年製品 定価150000円
外形寸法 470Wx170Hx435Dmm 
重量 24,0kg
瞬間供給出力550W+550W(1オーム負荷時)
120W+120W(歪率0.015%、20Hz〜20kHz、8Ω)

同時期発売されていたのは AU-α707L EXTRAや A-919など


下段パネルに細かいスイッチ類は収納されるようになった



パネルを開けたところ
PHONO入力はMC/40Ω 0.17mV/1kΩ 、MC/3Ω 0.17mV/100Ω、MM 2.5mV/50kΩ

私なりにまとめてみました。
間違いがあるかもしれません。
どうぞご指摘ください。

モデル名 変更点
555ESX

333ESXのトランスを2つ使用、合計700VA。コンデンサーはドライバー段24000μF、終段31000μF
ジブラルタルシャシーを採用。音はハードでダイナミック

555ESXU

コンデデンサーの配置が変更。しっかり固定されるようになり容量も強化される。555ESXのマイナーチェンジだがトランスは合計700VAとこのモデルと555ESXが最強。外観は555ESXと殆ど同じ。音は555ESXと比較してエネルギー感、重量感、艶とも向上し、音場感も著しく向上した

555ESR トランスが1個に変更されケースに封入される。コンデンサー容量さらに強化され6本搭載。シリーズ中ベストな音質と評判も高い?。コンデンサーの容量はこのモデルと777ESが最強。外観は555ESXと殆ど同じ。聴きやすいマイルドな音でエネルギー感は後退しバランスの良い音に。
555ESG 外観のデザインを大幅変更して左右対称となる。コンデンサーの表面を植毛で防振加工、コンデンサーは6本のままだが、TA-NR1用に開発した新型コンデンサーに変わっている。入力端子は全部金メッキされる。ヒートシンクの形状も変更。重量・出力・外形サイズは全く555ESRと同じ。
555ESL 外観のデザインを大幅変更(555ESGが不評?)
終段にMOS-FETを採用。定価150000円
トランスの容量は316VA。コンデンサーの数は4本に減り、重量が500g軽くなった。出力と外形サイズは555ESRと同じ。
555ESA 高剛性天板 −ジブラルタルルーフを採用
定価150000円。外観は555ESLに準ずる。
140W+140W 21.3キロ
555ESJ MOS-FETを電圧増幅段、ドライブ段、パワー段にも採用。外観は555ESLに準ずる。スピーカー端子は真鍮削りだし金メッキとなる。
FA7ES 終段がシングルに戻る トランスがトロイダルになりセンターマウントされる。Gシャーシ廃止。偏芯インシュレーター。フッ素加工放熱フィン。外観デザイン大幅変更。
FA70ES 電源部強化。リモコン廃止。放熱フィン、シャーシとも銅メッキ加工。トランスの容量は450VA。
FA777ES 電力容量を550VAへと大幅にアップしたOFC巻線のトーラス・トロイダルトランス・新開発電解コンデンサー採用 これが最終モデル


天板は上6箇所 左右各4箇所の14箇所で固定



スピーカー端子はデカイが正直操作性は今ひとつ
ACケーブルは直径8ミリのキャブタイヤ


サイドウッドはMDF製
コの字の天板の鳴きを抑えるためにフェルトが3箇所に貼られている。
630g


天板
防振のために色々貼られている。
放熱が多いアンプなのでスリットは全面に設けられている。1670g


内部

555ESRと555ESGはコンデンサーが6本だったのが、ESLでは4本に数が減っている。


ベース20mm厚5mm→3mmフィン左右18枚のヒートシンク
ダンプしてあり鳴かない
強力なヒートシンクだが、発熱もすごく 電源ONから15分ほどで触れないほど熱くなる。

 


ドライバー段の電解コンデンサー 直径40ミリ、高さ100ミリ
63V 8200μF が2本
ドライバー段にこんな強力な電解コンデンサーが必要なんだろうか?




Gシャーシーに直接固定されている

 


日本ケミコンのnegative blackが使用されている。
63V 8200μF
アンプの天井ギリギリの高さ

 


メインの基板までコードが引っ張られている。
ここにフィルムコンデンサーをパラに設置しても良いかも?
格子状に見えるものが Gシャーシー。

 


終段用のコンデンサー 直径60ミリと極太 長さは110ミリ
63V 18000μF 2本
このコンデンサーはメインの基板上にあるために 固定が難しい。
TA-F555ESXのころはまだ不完全な固定だったが555ESRの頃からこのような強力な固定となった。
ただこの固定具を外すためにはトランスを除去しないと駄目
高さ110ミリはアンプの天板までギリギリの長さである。

TA-F555ESGのコンデンサーは、直径50ミリ 長さ100ミリが4本、直径40ミリ 長さ100ミリが2本であり、表面に植毛をしてdumpしてあった。555ESLでは植毛処理は無くなった。余り効果がなかったのかもしれない。

 


トランスを除去
クソ重いが、容量は意外と小さく316VAしかない。
これだと798000円のTA-F333ESX(350VA)にも劣ることになる
(VAの数値がトランスの力の全てではない。むしろサイズに依存する印象もある)
トランスのケースは555ESRや555ESGと同じで、サイズは150×120×105 

トランスもGシャーシに直接ネジ止めされている。


メインの基板に供給される電力ケーブル
3系統ある


取り外した固定具
プラスチック製で 取り外しには6角レンチが必要
バイブレーションプルーフプラットフォームと呼ばれていたらしい。



メインの基板
トランスからの電力ケーブルは、手前の小さなヒートシンク(定電圧素子?)の間のコネクターに接続される。2つのコンデンサーから延びているケーブルがスピーカー端子に音楽情報を送るケーブル。

10万円ほどする電源コードやスピーカーケーブルは多いが、オーディオ機器の内部の配線は結構しょぼい。このアンプはまだマシなほうだろう。


基板は高品位なものが使用されている。
右端のケーブルがトランス後方の電解コンデンサーに接続されるケーブルである。写真中央には銅製のバーが使用されている。


ここのコンデンサーには ELNA製のシルミックが使用されている。



反対側は ニチコンのAVFが使用されている。

 


黒いチューブはセレクターの駆動用
ダイレクト入力・普通入力の切り替えに使用している。


バイアスの調整部

F333 30mV
F555 40mVと記載されている。


PHONO入力のイコライザー基板
中央の黒いケーブルはMC/MMの切り替えスイッチの駆動用


赤いコンデンサー
ブラックゲート???と思ったが、ELNAのセラファインコンデンサーだった。


この時代にはまだセラファインは販売されていたのだろうか?セラファインの奥のコンデンサーは日本ケミコンのAWFコンデンサーです。
左右の黒いものは フィルムコンデンサー (銘柄不明だが多分高品位なものだと思う)


この部分は2階建てになっている。
1階はフラットアンプ?でしょうか


レギュレーター(定電圧素子) NEC製A985


日本ケミコンのオーディオ用コンデンサー AVF

AV○やAS○はオーディオ用標準品
AW○はハイグレード製品  ということらしい


イコライザー基板を反転させた写真


ここにも銅製バーやAVFコンデンサーが使用されている。


後部にモーターが見える
入力切り替え用ということらしい


こっちがフロントにあるボリューム用のモーター


フロントパネル コントロール基板

M50720-255SP なんでしょうね・・・調べたけど判りませんでした。

 


裏側


足はジブラルタルシャシーと一体形成
この辺はCDP-555ESDやTA-F333ESRと同じ

 


防振されており叩いても鳴らない
ただし強度は無い


ヒートシンクのベースに取り付けられているMOS-FET素子

 


東芝製 2SK1529 2SKJ200 MOS-FET いわゆる新型MOS-FET

SANSUIなどが固執して使用していた2SK405/2SJ115の後継の素子ですが、パワーが出しやすい一方で いわゆるMOS-FETらしさはだいぶ失われているという評判で、実際のところ音としてはバイポーラーに近いそうです。
2006年1月現在1個500円前後で販売されています。
● 許容損失:120W
● D-S最大電圧:180V
● D最大電流:10A
● 入力容量:700pF


MOS-FETは、バイアス電流が多いほど低ひずみになる傾向がありますので、このアンプもかなりアイドリング電流が多めに設定されているようです。たぶん10W〜25Wくらいの領域は純A級動作しているかも??(勝手な想像)


横の素子は TO-126型パワートランジスタ
東芝A1360/C3423 プリドライバー

全段FET構成では無いことがわかります。


基板などもGシャーシーに直接ネジ止めされている。

 

サラリとした高音でTA-F333ESRなどに比べると滑らかさという面では後退している感じを受けた。この辺は好き好きだろう。また低音のパワーはAU-α707L EXTRAに負けている感じもある。全体的にMOS-FETを導入した1発目らしい製品というか音作りで、ジャスとかには良いかも。キンキンカンカンうるさいアンプではない。

マランツのアンプやTA-F333ESR TA-F555ESRなどで 音が前に出てこない・刺激が物足りないという方にお勧め。

発熱はとても多いアンプなので設置には注意が必要。天板の上3センチ程度の隙間ではオーバーヒートして保護回路が作動してしまった。10センチほどの空間は確保したほうがよさそうだ。


2006年1月 追加

スピーカーの右チャンネルの音が出にくくなった。
リレーの掃除をしてみることにした


スピーカー端子

取り外しは容易そうです


裏板の固定ネジを外すだけで この状態に・・・・
しかしコンデンサーやらがあるので取り外してきません。


ということで トランス取り外し
CDはサイズ比較用(ちなみに薬師丸ひろ子のCDです)


この状態にしてスピーカー端子の基板が取り外せます。


取り外したスピーカー端子の基板
黒いボックス状のものがスピーカーの切り替えリレー
コイル状のものは アンプの発振防止用のコイルでしょうか?
これは無いほうが音は良くなりますが、発振させてしまうとアンプが壊れますからねえ・・・・

ここにも銅製のバーが投入されています。


しかも なんか発熱して変色した抵抗があります。うーんまずいかも???
この辺は パーツもないし今回は対策を見送ります。


オムロン製のリレーです。


四苦八苦してリレーのカバーを外しました。
1円玉はサイズ比較用です


接点が黒くなっています


これを紙やすりでガシガシ研磨して この状態にしました。

しかし接点のサイズは1ミリ×2ミリ程度。ここをスピーカーに行く電流が流れるわけです。どんなに高級で太いスピーカーケーブルを使用してもオーディオ信号はここを必ず通過します。音質劣化は如何ほどのものなんでしょうか?
リレーの品番やメーカーはどうか知りませんが、パーツの品位としては TA-F333ESXと同程度のものが使用されています。



上が333ESA、下がが555ESL。サイドウッドの仕上げとSPターミナルが違うのみである。


TA-F333ESAは光沢仕上げのサイドウッドである。正面もRがつけられている。
TA-F555ESLはつや消し仕上げ。


 

1990年11月のステレオ誌に井上良治氏のコメントがありました。
333ESLという大ヒットモデルがあるだけに、やや影の薄い感じとなっているのが本機。当然のことながら333との実力差をはっきりつけたい所、そんな考えで作られているから、内容的には実に充実したものがある。Dレンジ・Fレンジなどは333を軽く上回り、軽々としたところがない。落ち着きを感じさせる風格があり、それでいてかなり広範囲にわたる解像度を持つ。エネルギーバランスもしっかり取れ、知るほどに魅力が伝わるモデルである。

FMファン誌に長岡鉄男氏のコメントがありました。
(1990年ダイナミック大賞部門賞)

MOSの真価を発揮させるのはかなり難しいのだが
本機はかなりいいところまで来ている。レンジが広く、透明で繊細で切れ込みの良さを見せながら、耳障りな音を出さない。低域のエネルギー感もTA-F333ESLにハッキリと差をつける。ハイCP機である。この上を望むのなら、ESXUのトランスとESLのフィルターコンデンサーの組み合わせだが、それを実現するにはキャビネットの容積不足、777ESLを期待したくなった。

また1990年12月のステレオ誌では同 長岡鉄男氏は以下のようにコメントされ、10万円以上のプリメインアンプとして本機を選出されています。
SONYの555シリーズはTA-F555ESXUがベストであり、555ESR、555ESGとむしろクオリティダウンしてきたと思うが、今回の555ESLは、MOS-FETの採用で飛躍した。高級マニアにも共通する本質的な良さを持ったアンプである。

1991年4月発行のSOUND TOPS季刊26号(1991春)では高島誠氏は以下のようなコメントを残されています。
全体的に欠点が少なく、まとまりの良い優秀なモデルだ。TA-F333ESLとの価格差53000円あるが、全体の傾向は大変良く似ており、ちょっと視聴しただけでは区別ができない。しかし耳を澄まして聴くと本機の品格がわかる。この品格の差は価格分のことはある。本誌の読者にはこれを聴きとってほしいし、判ると思う。音はMOS-FETを採用したモデルらしく聴きやすい。ディテールのグラデーションも自然だ。音があるないではなく、中間の音も良く聴こえるのだ。弦楽器の微妙な表現差までキチンと表現するする点は素晴らしい。間接表現は弟機とやはり差があり雰囲気は抜群だ。声とピアノが醸し出す漂いまでが表現されている。

また同紙に藤岡誠氏のコメントもありました。
本機はSONYで初めてMOS-FETを使用したモデル。MOSのデバイスの良さを十分に引き出している。333ESLも555ESLも試作機の頃から視聴をしているが、MOSの使いこなしを含めて555ESLの方が出来が、333ESLを最初から上回っていた。それが選出した理由である。それにコストのかけ方が違う。またいくつかのスピーカーを試したが、余りスピーカーを選ばず、上手に鳴らすし、大変音楽的でオールマイティーだ。ただ低域がちょっと柔らかいかなと感じる人も居るだろうが、前モデルのTA-F555ESGより締まった音になった。CDはダイレクト端子が鮮度が高く、マランツのCD-99SEがマッチすると思う。
 写真を見ただけでは333ESLと555ESLの区別が出来ない。ただ出力端子が大型になっていたり、電源回路の強化、出力アップ、主要パーツの厳選など、細部は大幅に異なっている。音の傾向は333ESLに似ているが、粒立ちの良さ、全体の引き締まりの良さは本機の方が価格差以上のクオリティを示す。オーケストラを聴くと、Dレンジの安定した表現やピアニッシモの美しさなど、本機の方が上であると良く理解できるはずだ。ヴィオリンやピアノなどのソースも一音一音の美しさがキチンと表現されている。素晴らしい製品であることは間違いない。本機は相当高級で大型なスピーカーと組み合わせてもなんら問題はない。オールオーバーで優秀なモデルだ。

私見ですが、良い意味でも悪い意味でも いわゆるSONYサウンドの範疇で、クラシックをゆっくり聴くのにはサンスイのAU-α707L EXTRAの方が向いていると思います。しかしハイスピードサウンドという点においては このアンプの方が優れています。

オーディオ解体新書>SONY TA-F555ESL